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2-8 拉致 [マニピュレーター(シンクロ:同調)]

剣崎は神経を集中させる。次第に、映像が浮かんできた。

レイは、駅ビルを抜けて、南口に出て来た。
周囲に注意しながら、ベンチに座った。スマホを取り出し、話をしている。
剣崎との会話の時の様子だった。その途中、急に苦しそうな表情を浮かべ、スマホを落とした。
既に危険が近づいているのは明らかだった。
目の前に、男が二人向かってくる。
二人ともサングラスをかけスーツを着ている。ベンチに座っているレイを挟むように、男達が座る。レイの顔が苦痛で歪む。背の高い方の男が、レイの耳元で何かを囁くと、静かにレイとともに立ち上がった。
レイは抵抗する事が出来ない様子で、男達とともに、歩き始め、そのまま車に乗り込んだ。

そこで、サイコメトリーの映像は消えた。

「レイさんは、さっきの男達に連れ去られたわ。」
サイコメトリーを終えて、剣崎は、力なく答えた。
「何てことだ!」
一樹は紀藤署長からレイの身を守ることを条件に、捜査同行を許された。レイが拉致されることは最も起きてはいけない事だった。
「どこへ行ったんだ。何か、手掛かりはないんですか!男達は誰なんです!」
一樹は、疲れた表情を浮かべている剣崎に問い詰める。
「一度、トレーラーへ戻りましょう。」
剣崎はそれだけ言って、カルロスを呼んだ。
すぐに、カルロスが車で乗り付け、剣崎と一樹は、トレーラーへ戻ることにした。
カルロスの運転する車の中で、剣崎は目を閉じたまま、無口だった。
もしかしたら、あの車を発見できるかもしれない。僅かな望みを抱きながら、一樹は、車の中でも周囲の様子に目を凝らしている。
トレーラーに戻ると、アントニオが出迎えた。
レイの姿がない事に気付き、剣崎を見る。
剣崎がアントニオに小さく何かを呟いた。アントニオは小さく頷き、運転席へ入った。
一樹はトレーラーに戻ると、すぐに亜美へ連絡を入れた。
「亜美、この後すぐ、映像データを送る。そこに映っている老夫婦の身元を照会してほしい。」
「判ったわ。・・それから、生方さんからの情報、もう少し時間が掛かりそうなの。それも判ったら知らせるわ。」
亜美は、生方からの情報を手にするまでの間、気になっている事を調べているようだった。
「レイさんを連れ去った奴らは誰なんですか?」
一樹は、ソファに座り目を閉じたまま何も話さない剣崎に向かって、強い口調で訊いた。
「レヴェナントっていう、生方さんからの言葉と関係があるんでしょう?ちゃんと話してください。レイさんの身に何かあったらどうするんですか!」
一樹が捲し立てる。
剣崎は小さく溜息をついて、座り直し、一樹を見て、ようやく口を開いた。
「全てを知っているわけじゃない。ただ、アメリカの機関にいた時、レヴェナントと呼ばれる集団があると教えられたわ。」
「レヴェナント?・・確か、生方さんの伝言にあった・・。」
「そう、その名の通り、存在しないはずの人間。特殊能力を持つ者は、収容所に集められ教育を受ける。そして、訓練を終えた者はCIAの秘密機関に入れられ、スパイ活動や破壊活動を行うことになるの。しかし、その中には、失敗して殺されてしまったり、そのまま行方不明になる者もいる。」
「まさか・・。」と一樹。
「ええ、そうよ。存在しないはずの人間が死んだり行方不明になってしまえば、そこから先は追えなくなる。そうした者が秘密結社を作って暗躍しているという情報があったわ。それを、CIAでは、レヴェナントと呼んでいた。」
「レイさんはその・・レヴェナントに連れ去られたっていうんですか?」
「おそらく、そう。」
「何のために?マリアと関係があるんですか?」
剣崎は答えに困っている。
そこに、アントニオが現れた。
剣崎にサインを送ると、剣崎はモニターの電源を入れた。
画面にはたくさんの顔写真が並んでいる。
「これは?」と一樹。
「昔、私が居た機関のエージェントたち。皆、行方不明や死亡リストにあった人物。アメリカに戻った時、データを抜き取ったの。」
剣崎は、そう言いながらモニター画面を凝視している。先ほど、サイコメトリーした映像の中にいた男を探している。
「いた。この男。」
剣崎が指差すと、アントニオがすぐに、その男のプロフィールを開く。
「ナンバー051・・・。彼は、レイさんと似た能力を持っている。レヴェナントね。」
更に、画面を戻して、もう一人の男を探した。
だが、剣崎の脳裏に浮かんだもう一人の男の顔はなかった。
「レイさんを連れ去ってどうしようというんでしょう。」
一樹が訊く。
「おそらく、マリアの居場所を突き止めるためでしょうね。」
「しかし、その男も同じ能力を持っているなら、レイさんを拉致しなくてもいいんじゃ・・。」
一樹の言葉を遮るように剣崎が言う。
「いえ、彼の能力は、訓練で身につけたもの。レイさんに比べれば、幼子のようなものだわ。マリアに近付くには力不足よ。だから、レイさんを連れ去ったのよ。」
剣崎は、確信をもって答えた。
一樹は、剣崎がもっと重要な事を隠していると直感した。だが、今、問い質しても、剣崎は明らかにはしないだろう。そう考え、それ以上追及するのを止めた。
一樹は一呼吸おいて、剣崎に言った。
「レイさんが居ない中、どうやって、マリアの足取りを追えばいいんでしょう?」
剣崎は、一樹を見て、少し窘めるように言う。
「犯人を追うのは刑事の仕事でしょ?行方不明の少女を探すのに、レイさんの力を借りることはないでしょう?」
剣崎に言われて一樹はハッとした。
知らぬうちに、レイに頼っていた。いつも通り、犯人を追う時と同じやり方で追えばいい事を思い出した。
一樹は、亜美に電話をした。
「何か、判ったか?」
亜美は、橋川署で生方からの第2のメールを待ちながら、一樹から送られてきた映像を調べていた。
「あの老夫婦は、顔認証システムで、身元が判ったわ。住所を送るから。」
亜美はそう言って電話を切った。一樹はレイが拉致されたことを話さなかった。
メールが届く。
「静岡市清水区三保本町・・行ってみましょう。」
アントニオがトレーラーを発車する。ほんの30分の距離だった。高松海岸まで出て、そこから海岸沿いを東へ向かう。近くまで来ると、トレーラーを止め、そこからはカルロスの車で向かった。
いつの間にか、日暮れが近づいている。
夕暮れの町、向かった先は閑静な住宅街だった。大きな屋敷が並んでいた。静岡は温暖な気候、さらにここ、美保は太平洋に突き出した砂州にできた街で、昔は別荘地にもなっていたところだった。
「この家ですね。」
一樹は、亜美から送られたメールの住所を頼りに、老夫婦の家を突き止めた。

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