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2-7 監視 [マニピュレーター(シンクロ:同調)]

一樹は、亜美からの伝言を剣崎に伝えた。それを聞いて、剣崎の顔色が変わる。
「急がなければ・・・。」
剣崎はそう言ったきり、押し黙った。
トレーラーは、静岡駅に着いた。長距離バスを降りたのは確かである。
剣崎とレイは、バスターミナルへ向かう。
レイは周囲の思念波を探った。
通りには沢山の人がいたが、そこからはマリアの思念波は感じられなかった。少し場所を移動した。バスターミナル近くにあるコインロッカーの前で、かすかにマリアの思念波の欠片を感じた。
「ここに来たようです。」
「荷物を預けたのかしら?」
レイは幾つか並んでいるロッカーを丁寧に調べていく。だが、それ以上、マリアの思念波は感じられなかった。
一樹は、名古屋を出たバスの時刻から、静岡駅に到着した時刻を割り出し、その時間のバスターミナルの監視カメラ映像を見るために、事務所へ向かった。
バス運行会社の事務所は、突然刑事が訪ねて来て、監視カメラの映像を求めたため、騒然となった。
「事件ですか?殺人犯が逃亡したとか、誘拐事件とか物騒な事じゃないですよね。お客様に御迷惑が掛からないように事情を説明してください。」
事務所長は少し神経質な男のようで、捲し立てるように一樹に言う。
「いや、家出した少女を探しているだけです。厄介な仕事です。嫌になりますよ。」
一樹は敢えてのんびりとした口調で、やる気無さそうに答えた。
それを聞いて事務所長は妙に納得したようで、「それじゃあ」と言って事務所の奥にある所長室に一樹を案内した。そこには小さなモニターが置かれていて、一応、ターミナルを監視できるようになっていた。
一樹は所長に、該当のバスが到着した時間を指定して、映像を準備してもらい、じっくりと見始めた。事務所長も、何か興味本位で映像を見ている。
「あの・・ちょっと気が散るので、一人にさせてもらっていいですか?」
一樹が少し強めの口調で言うと、所長は、ばつの悪そうな顔をして部屋を出て行った。
一樹は映像を早送りにした。
赤いチェックのワンピースを着た少女。バスを降りて来る客の姿を凝視する。暫くすると、老夫婦とともに、赤いチェックのワンピース姿の少女が居た。
「いた!」
三人はカメラの前を通り過ぎ、その後、姿が確認できなくなった。
一樹は、監視カメラの映像をコピーした。
そして、所長室を飛び出し、剣崎のところへ向かった。
「剣崎さん、居ました。間違いない。静岡駅でバスを降りています。」
「三人はどっちへ向かったの?」
剣崎が訊く。
一樹は監視カメラの位置を確認し、映像を思い浮かべながら、方向を探る。
「ええっと・・・たぶん、あっちの方向です。」
一樹が指差した先は、駅ビルの入り口の方向だった。
「やはりコインロッカーに向かったようね。」
剣崎が言う。だが、その先のことは判らない。
「何か、他に手掛かりはないかしら・・。」
剣崎もレイも一樹も、マリアたちが向かった方向をぼんやりと見ていた。
「バスを降りて、コインロッカーへ向かった・・荷物を預けるか、取り出すか。マリアの思念波が感じられないというなら、そこに荷物はないんだろうな。預けてあった荷物を取り出したという事じゃないかな?」
一樹が呟く。
「名古屋に旅行に行く前に預けた荷物を取り出したという事は、自宅に戻ったということかしら?」
剣崎が言うと、一樹が応えるように言った。
「そう考えるのが妥当でしょうね。」
静岡近辺に自宅があるという事だと推論されたが決定的な事は何もわからないままだった。
その時、レイが、一瞬、身震いした。
全身に電気が走ったように、ほんの一瞬だが、異様な思念波が体を通過したように感じた。
「どうした?」
一樹が、レイの異変に気付いて訊いた。
「何か・・異様な・・思念波が・・。」
レイはそう言って、通りの向こうに視線をやった。
通りの向こうに黒塗りの車が止まっていた。
剣崎が、じっと目を凝らす。
男が二人乗っているのが見えた。一人は、日本人ではなさそうだった。もう一人は、大きなデジタルカメラを手にしている。
明らかに、剣崎たちの動きを見張っているようだった。日本の警察ではなさそうだった。CIAに監視されているのは知っていたが、それとも違うようだった。
剣崎は、レイの手を握り、思念波で話しかけた。
『レイさん、すぐに、ここから離れましょう。私たちは監視されている。』
『判りました。』
『おそらく、彼らはアメリカから来た人間。きっと私を監視しているはず。一緒にいない方が良いようだわ。』
『それなら、皆、バラバラに動きましょう。私は、駅ビルの中へ向かいます。剣崎さんは、右手にあるホテルの方向へ。一樹さんには私がそっと伝えます』
レイは思念波で答えてから、一樹の手を握り、一樹の思念波に入り込んだ。
一樹は、初めての感覚だった。まるで、体の中にレイが入り込んでいるようで妙な気分になった。
『剣崎さんから、誰かに監視されているからここから離れようと・・私は、駅ビルへ。剣崎さんは右手のホテルへ行きます。一樹さんは、地下へ入って下さい。落ち合う場所は後で連絡します。』
一樹が了解すると、三人は、パッと離れた。
剣崎は、ホテルに入ると、ロビーから、通りの向こうの車の動きを確認した。
暫くすると、車が急発進した。そして、大通りから交差点を曲がっていく。その先は、駅の南口。車の男達は、レイを追っているのだと剣崎は確信した。自分の推察が間違っていた。だが、何故、レイを追っているのか。その時、剣崎は、生方からの伝言、『レヴェナントが現れる』という言葉を思い出した。
「まさか・・。」
剣崎はそう呟くと、すぐに、レイに電話をした。
「レイさん、どうやら、あの男たちはあなたを追っているわ。戻って!」
と告げたところで、レイとの通話が切れた。
剣崎は、すぐに一樹に連絡をし、駅ビル内で合流した。人通りは少なく、南口まで見通せた。レイの姿はない。
『レイさん!』
剣崎は、思念波でレイに呼びかけるが、反応はない。そのまま、南口までゆっくり周囲の様子を探りながら進む。一樹は、トイレやコインロッカー、改札口、あらゆるところを走り回ってレイの姿を探した。しかし、レイを発見できない。
そのまま、南口に出た。タクシー乗り場や一般客送迎の駐車スペースがあり、脇に小さなベンチがあった。一樹が、何か痕跡はないかと必死で探し回っていると、ベンチの後ろにハンカチが落ちていた。確か、これはレイが使っていたものと似ている。
「剣崎さん、これがあそこに。」
一樹はハンカチを剣崎に見せる。
「貸して!」
剣崎は、一樹からハンカチを受け取り、目を閉じ精神を集中し、サイコメトリーでレイのハンカチから残像を見ようとした。
剣崎は神経を集中させる。次第に、映像が浮かんできた。

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