SSブログ

1-2 事件現場 [アストラルコントロール]

「まさか・・確か・・あの辺りは、桂木町・・いや、何かの偶然だろう・・。」
心に引っかかるものはあったが、すぐには動く気にはなれなかった。
再び、ベッドに横たわり眠りについた。
カーテンの隙間から朝日が差し込み、ベッドに横たわる零士の顔にあたった。さすがに、起きるしかないと決断し身を起こす。時計は7時を指している。
ベッドの脇にあったリモコンを取り、テレビをつける。ニュースの時間だった。
『本日未明、横浜市桂木町の路上で女性二人がアイスピックで刺されて死傷する事件が起きました。』
テレビ画面には、規制線が張られた事件現場の映像が映っていた。
「ここは・・。」
昨夜の夢とそっくりの場所だった。
零士はしばらく瞬きもせずじっと画面に見入ってしまった。
規制線の向こうで、たくさんの警察官があわただしく動き回っていて、中には刑事らしき人物も映っていた。
零士は画面をじっと見つめながら、ソファーに乱雑に置かれていた洋服を何とか手に取り、着替えてから、いつもの習慣で、一眼レフカメラを抱えて部屋を出た。
あの夢と同じことが現実に起きていることが信じられなくて、現場に行けば、その疑問が解けるという思いで部屋を飛び出した。
現場までは歩いてわずかな距離だった。
現場周辺には、予想通り、テレビ局や新聞社などの報道陣が集まっていた。何とか現場の映像を抑えようと高い脚立が何本もたてられていた。テレビ局のカメラの前でアナウンサーが出番待ちをしていた。そして、事件のことを聞きつけて、周辺の住民も集まっていた。規制線の手前に警察官が直立不動して、見物している住民や報道陣を睨みつけていた。
零士は何とかその後ろに着いた。
住民たちの合間から、規制線の向こうが時々見える。
やはり、あの夢と同じ場所だ。だが、そんなことがあるだろうか?思わず夢遊病というワードが頭を過る。いや、そんなはずはない。夢遊病なら意識がないはず。だが、あの時、確かに殺人現場の光景を見た。あまりにリアルで目が覚めた。しかし、あれは確かに夢だった。目覚めたとき、確かにベッドに横たわっていたのだ。
零士は、大きな疑問が晴れないまま、見物の住民たちの中にいた。そして、手にしていた一眼レフで規制線の向こう側の光景を何枚か撮影した。
「あの電柱を確かに見た。いや、だが・・。」
小さなモニター画面で撮影した写真を見ながら呟く。
スマホを取り出して、事件の続報を探した。
『先ほどの事件の続報が入りました。』
ニュース画面からアナウンサーの声が響く。
『被害にあったのは、女優の片岡優香さんとマネージャーの本田幸子さんだと判明しました。救急車が到着したとき、片岡さんはすでに心肺停止状態、本田さんも意識不明だったようです。残念ながら、片岡さんは救急搬送されましたが病院で死亡が確認されました。本田さんは一命はとりとめたものの、意識は回復していない模様です。』
「まちがいないな・・。」
「山崎さん!やっぱり駄目でした。」
事件現場に仁王立ちしている年配の刑事に駆け寄った林田刑事が申し訳なさそうに言った。林田は今年刑事課に配属されたばかりの新人刑事だった。細身で高身長、一見するとどこかの営業マンのような風貌をしていた。少しばかり頼りない。
「この辺りには防犯カメラはありませんでした。住宅街の真ん中、コンビニもありませんし・・目撃者も・・。」
「そうか・・。」
山崎刑事は、規制線の向こうに集まっている野次馬や報道陣に視線を送る。
「武藤!」
そう呼ばれて、別の刑事が「はい!」と返事をする。30代半ばの刑事。場慣れはしているが、積極的に動く方ではなく、何かと面倒くさい感じで、のそのそと動くタイプだった。
「集まったやつらを撮っておけ。犯人が紛れているかもしれないから。」
山崎に言われて、武藤刑事は、慌ててポケットからスマホを取り出して、周囲を写し始めた。
「犯人は現場に戻るって・・根拠が分からないんだけどね・・。」
武藤は独り言を口走りながら撮り続けていた。

nice!(4)  コメント(0) 
共通テーマ:趣味・カルチャー