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1-13 三度目の夢 [アストラルコントロール]

零士は、その日の夜、何だか体が怠くて仕方がなかった。
昼間、五十嵐に夢の話をした後から、何かに抑え込まれるような妙な感覚が全身に広がっていて食欲もなくて、10時過ぎにはベッドに入った。
眼を閉じると、急に睡魔に襲われた。
気づくと、見知らぬ部屋の前に立っていた。
これは夢なのだと今回は冷静に判断できた。古びたアパート、表札も出ていない。零士はすーっとドアをすり抜けて室内に入った。部屋の主は留守のようだった。あまり物がない、シンプルな暮らしをしているようだ。クローゼットの中に顔を突っ込むと、女性もののスーツが何着か吊られていた。女性の部屋だとわかる。
「確か、このスーツ・・。」
見覚えのあるスーツだった。振り向いて、机の上に置かれたものを見る。『片岡優香』が表紙になっている古い写真週刊誌や映画のパンフレットなどがあった。
「ここは、本田幸子の部屋だな。」
零士は不意に、彼女がどういう人物なのか知りたくなった。
自分を犯人に仕立てる証言をしたことがどうにも納得できなかったからだ。引き出しに手をかけた。だが、びくともしない。ドアをすり抜けたり、クローゼットを開けずに中を覗いたりできるのだが、逆に、触ることはできないことに気づいた。
「出ているものを見るほかないのか。」
零士は、部屋の壁や机の上、冷蔵庫の中などとにかく見ることができるものはすべて見ようと考えた。何かを探しているわけではないので、行きつくものさえわからない。
「おや?これは・・。」
ソファの脇に、青い縞模様のネクタイが落ちていた。男性のものに間違いない。ちらりと見えるタグに高級そうなロゴが見える。
「男が出入りしていたのか。いったい誰なんだ。」
考え込んで目を閉じると、急に目が覚めた。
自分の部屋のベッドにいた。
「彼女には男がいた。どういう関係かは判らないが、きっと事件と関連があるはずだ。」
翌朝、零士は五十嵐に電話をして署の近くの公園に呼び出した。
「本田幸子のことはどこまで調べた?」
と零士が唐突に五十嵐に訊いた。
「捜査情報は話せないわ。」
「だろうな。」
と零士は予定通りの返答をした五十嵐を冷ややかな目で見て行った。
「まあいいか・・一つだけ知りたいことがある。彼女の男性関係は分かったか?」
「その情報はないわ。地味だし、マネジャーだったんで、自分のことは後回しだったんじゃない?」と五十嵐が少し憐れむようなニュアンスで言った。
「それって先入観で見ていないか?我儘なタレントに苦労しているマネジャーっていうバイアスがかかっていないか?女性の刑事っていうのも、おっかなくて、男性が寄り付きそうにない、もてない女性だって思われているみたいに。」
これには五十嵐はカチンときた。
正直、今まで男性とまともに付き合ったことはなかった。だが、それは女性刑事だからということではなく、あえて、そういうことに興味を持たなかった、いわば、主義のようなものだと思ってきた。だが、あからさまに言われるとなんだか気分が悪い。返答するのもムカついていた。
「昨夜、彼女の家にいる夢を見た。質素な部屋だった。およそ、女性の部屋とは思えないほどだったが、そこに男物のネクタイが落ちていた。もちろん、彼女の交際相手とは限らない。もしかしたら、片岡優香から渡されたものかもしれない。だが、ソファの脇にくしゃくしゃになって落ちていたところを見ると、そこで外したと考えたほうが妥当だろう。ネクタイの持ち主がこの事件に絡んでいるとは言えないか?」
零士が五十嵐に言った。
まだ、むかついてはいたが、零士の話は十分興味深い内容だった。
「調べてみる価値はありそうね。」
五十嵐はそう言うと、署に戻っていった。

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