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1-7 証言 [アストラルコントロール]

「どこかで会ったことがあるという言葉もありましたから、関係者でしょうか?」
「さあ、どうかな。とりあえず、彼女の言う不審者については、事件の目撃者を探している武藤たちにあたらせる。お前は、もう少し、彼女から話を訊いて、あの日の行動の裏どりをしろ。もし、犯人が顔見知りなら、もっと前から彼女たちの近くにいたかもしれない。」
山崎は、そういうと病院を出て行った。
五十嵐が、もう一度、病室に入ろうとしたとき、看護師がやってきた。
「今日はこれくらいにしていただけませんか?会話は彼女の体に障ります。」
厳しい顔つきで五十嵐に言った。
山崎と五十嵐が病室を出て行ったあと、本田幸子はナースコールをしたようだった。
五十嵐は仕方なく、本田幸子から訊いた事件の日の行動をもとに、雑誌の取材場所やショッピングで立ち寄った店などで裏どりをした。
彼女の供述通り、その日は、取材とショッピングをしていた。その周辺では不審者の目撃情報は取れなかった。
翌日、捜査本部に集まって、会議が開かれた。
武藤たちの捜査からは、不審者や事件の目撃情報は取れなかった。また、周辺の防犯カメラにもそれらしき人物も見つからなかった。
「通り魔の犯行だとすると、あの住宅地に住んでいる人物ということでしょうか?」
五十嵐がぶしつけに質問した。
「まあ、その線もあるだろう。もう少し、住宅地での聞き込みを続けてみよう。」
山崎が武藤たちに指示した。
「彼女たちの周囲では、不審者らしき人物は見つかりませんでした。所属事務所にも確認しましたが、最近はゴシップもなくなったそうです。ただ、仕事もほとんど入らなくなっていて、契約解除の話も進んでいたようです。」
武藤が口を開く。
「本田幸子が現場近くに見かけた不審者ですが・・彼女からもう少し具体的な情報は引き出せないんですか?」
目撃者や不審者探しをしていて、進展がないためか、少し苛立ち気味に五十嵐に訊いた。
五十嵐が首を横に振る。
その後、何度か、本田幸子の病室に足を運んでいたが、「覚えていない」という反応が返ってくるばかりで、詳細に聴取しようとすると、体調に障るという理由で、追い出された。
山崎は机の上に広げた書類に目を通していた。そして、不意に見物人が多数映り込んでいる写真を取り上げた。
「この写真を本田幸子に見せて、反応を見てみよう。」
すぐに五十嵐は、病院に向かった。
「5分でいいので、面会を」
とナースステーションに申し入れ、看護師同席で面会することになった。
「今日は見てもらいたい写真があるんです。」
五十嵐が取り出した写真は、事件後の集まった野次馬や報道関係者を映したものの1枚で、中央に、射場零士が映っているものだった。
「この中に、住宅地で見た不審者に近い人物はいないかしら?」
五十嵐が訊くと、いやな表情を見せながらも本田幸子は写真に目を落とした。
しばらく、写真を眺めていたが、本田幸子は不意に顔を上げた。
「この人、この人だったように思います。」
彼女ははっきりとそういって、写真の中央に移っている射場零士を指さした。
「もう一度しっかり見て。事件の時の記憶はあいまいだったはずでしょう?間違いでは済まされないのよ。」
被害者の目撃証言は決定的だ。冤罪を生む可能性も高い。だからこそ、五十嵐は再度確認してみた。
「いえ・・きっとこの人です。・・昔、会ったことがあると思ったのは、不倫報道の時の記者だったからです。しつこくマンション前で取材を受けたので、よく覚えています。きっと、この人です。」
本田幸子の言葉は確かだった。だが、五十嵐は何か違和感を感じていた。その理由は、証言する彼女の顔に笑みのようなものを見つけたからだった。
「わかりました。ありがとうございます。」
五十嵐はそういうと病室を出て、山崎に電話した。

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