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1-5 事情聴取 [アストラルコントロール]

それから数日、特に、事件に関連する夢も見なかった。
テレビの報道もすでに忘れられたようにほとんど報道されていなかった。だが、零士の心にはどうにもあの事件が引っかかって仕方なかった。
零士は桂木記念病院へ行ってみることにした。
面会など出来るはずもないが、何か、自分の見た夢の理由が判るかもしれないと考え、病院の玄関前に立った。
「確か、3階だったはずだが・・。」
とりあえず、正面突破をしてみることにした。玄関を入り、外来受付の前を抜け、入院病棟へ上がるエレベーターに向かった。警官の姿はない。
点滴をしている患者に紛れて、エレベーターに乗り込むと、3階で降りた。ちらりと周囲を確認する。一番奥に警官の姿があった。
「あの部屋か・・。」
病室とは反対側へ歩く。
いきなり近づけば警戒される。見舞い客だと思われるように病室の名前を一つ一つ確認する格好をしながら、様子を探っていると、病室から、例の女性刑事が飛び出してきた。
彼女の表情から、被害者の女性が意識を回復したのは明らかだった。その刑事は、エレベーターホールまで来ると、スマホを取り出した。
「山崎さん、被害者が意識を取り戻しました。」
電話の向こうから、声が聞こえる。
「ええ、大丈夫です。・・担当医からも許可をいただきました。どうしたらいいですか?・・はい、わかりました。お待ちしています。」
五十嵐刑事はスマホを切ると、小さく拳を握った。これで有力な情報が入手できる。
零士は五十嵐の様子を見て確信した。
『だが、犯人はいないじゃないか。意識を取り戻して何を話すのか。正直に、私が殺したっていうはずもない。あいまいな供述をして混乱させるに違いない。』
零士は、当然のようにそう思い、これ以上、ここにいても意味はないと考え、エレベーターの前に立った。
エレベーターが上がってくる。ドアが開くと、山崎刑事が姿を見せた。零士は無意識に、顔を下げ、山崎に顔を見られないようにしてさっとエレベーターに乗り込んでドアを閉めた。
「おや・・確か、あいつ・・。」
山崎はすれ違った零士に気づいて、小さくつぶやいた。
「山崎さん、こちらです。」
病室の前で、五十嵐が妙に張り切って手を振っている。
「おいおい、参観日じゃないんだぞ!」
山崎はそう呟くと、つかつかと廊下を歩いて病室へ入った。
ベッドの上には、まだ苦しそうな表情を浮かべている本田幸子の姿があった。
「短時間でお願いします。」
連敗の担当医はそういうと病室を出て行った。
山崎は、ベッドわきにある丸椅子を引いてきて、ベッドの足元辺りに座った。
「五十嵐、聴取だ。」
「はい。」
五十嵐は少しうわづった声で返事をして、手帳を取り出してから、本田幸子を見た。
まだ、うつろな表情をしている。
何から聞けばよいのか、五十嵐は少し戸惑った。先ほどの元気さがここにきて急に萎えてしまったようだった。
「ええっと・・まず、あなたは、本田幸子さんで間違いないですか?」
小さく頷く。
「事件のことはどこまで覚えていますか?」
幸子は少し記憶をたどるような表情を見せたあと、「ぼんやりと覚えているくらいです。」と答えた。
「片岡優香さんは亡くなりました。」
五十嵐が言うと、幸子の表情が強張り、大粒の涙をこぼし始めた。

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