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1-3 厳しい視線 [アストラルコントロール]

「山崎さん!もう一人の被害者は、命に別状はないようです。まだ、意識は戻らないようですが、医師の話では2,3日すれば意識が戻るはずだと・・。」
規制線をくぐってきて報告したのは、五十嵐という女性刑事だった。
長い髪を一つに束ね、黒いパンツスーツに身を包み、快活な女性だった。刑事になって5年。刑事課のなかでも優秀だと目されていた。
「そうか・・それなら犯人を見ている可能性があるな・・五十嵐、お前は病院に張り付いておけ。意識が戻ったらすぐに聴取しろ。」
「はい!」と五十嵐は返事をすると、写真を撮っている武藤のほうを見て、小さなガッツポーズを見せた。
「ちぇっ。なんであいつなんだよ!」
と武藤は舌打ちをして五十嵐を見送った。
五十嵐は足取りも軽く、規制線をくぐって、病院へ向かった。
「案外、事件解決は早そうですね。」と野次馬たちの写真を撮っていた武藤刑事が山崎に言った。
「ならいいがな・・。」
山崎は集まった野次馬のほうへ視線を送っている。
「犯人が目撃されていれば、決定的でしょう。」
山崎の意外な回答に、武藤は少し驚いて訊いた。
「まあ、いいだろう。とにかく、周辺に集まったやつらをしっかり撮っておくんだ。」
山崎はそういうと、現場になった通りを何度も歩いて周囲を確認した。それから、集まっている野次馬たちをにらみつけるように観察した。
「おや・・あいつは・・確か・・。」
山崎はそう呟いて、射場のほうへ視線を送る。
現場を見ていた零士も、山崎の視線に気づいて、小さく会釈をした。
零士は、数年前に繁華街で起きた傷害事件の際、取材で近くにいて、山崎刑事から尋問を受けたことがあった。
もちろん、事件には無関係だったが、特ダネの取材で終日、事件のあった繁華街をうろうろしていたため、被疑者ではないかと疑いをかけられたのだった。
アリバイを問われても、とにかく、事件現場近くをうろついていたのは事実だったし、その傷害事件の被害者は、特ダネで追いかけていた当人だったため、山崎からしつこく尋問されたのだ。
犯人が捕まり疑念が解けた後も、山崎からの謝罪はなく、それっきりになっていた。互いにあまりいい印象を持っていなかった。
山崎は、周囲にいた警官や刑事に号令した。
「とにかく、目撃者捜しだ。聞き込みの範囲をもう一回り広げる。事件の時間の前後にこの辺りにいた人物を洗い出す。」
山崎はそういうと、パトカーへ戻っていった。
「現場検証はそろそろ終わりだな。」
現場の様子をじっと観察していた零士は、くるりと向きを変えて、アパートへ戻った。
帰りの道すがら、同じ思いが何度も脳裏を巡っていた。
「あの夢はいったい何だったんだろう。やはり、現場にいたのか?」
しかし、時間が経つにつれて、夢の光景が徐々に薄れていき、先ほど現場を見たことで、現実と夢の境界があいまいになりかかっていた。
早朝だったせいで、まだ、体は目覚めていない感じだった。零士はアパートへ戻ると、ベッドに横になった。
また、睡魔が襲ってきた。
気が付くと、白い壁の建物の中にいた。白衣を着た人物が何人も行き来している。
そこは病院だった。
廊下には制服を着た警官が二人、門番のように立っている。患者名の欄は空白になっていた。しばらくすると、女性が一人現れ、ポケットから警察バッジを取り出して見せると、病室の前に立つ警官が敬礼をしてドアを開けた。
「あの女性・・確か、事件現場にいたな・・。」
五十嵐刑事はすぐに病室に入っていく。
零士も壁をすり抜けるように病室に入った。心電図モニターや酸素マスクをつけた患者が横たわっていて、看護師が様子を看ている。

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