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黄色い髪の男-1 [デジタルクライシス(シンクロ:同調)]

「水野裕也を追いましょう。その先に、EXCUTIONER(死刑執行人)がいるはずです。松本から先の足取りを掴めば、何か接点を発見できるかもしれません。」
「そうね。・・先日、防犯カメラの映像から水野裕也が割り出されたから、生方に調べさせていたの。そろそろ、何か判るんじゃないかしら?生方、水野裕也の足取りはどうなってる?」
会議スペースから、名古屋に居る生方に向けて、剣崎が呼びかけると、モニターに生方の姿が映し出された。
『・・残念なお知らせです。水野裕也はすでに、死んでいました。』
生方は、少しもったいつけるような言い方をした。
「どういうこと?」
剣崎の厳しい声が飛ぶ。生方は顔を引きつらせて答える。
『はい。本庁から、水野裕也の死亡報告書が送られてきました。松本市内の廃ビルの一室で、遺体で発見されていました。DNAサンプルから、水野裕也だと特定された様です。死亡推定時期は、駒ケ根事件のあった頃です。』
「死因は?殺害されたの?」
剣崎の厳しい声はさらに続く。
『ええっと・・死因は自然死。外傷などはなく、衰弱死との鑑定です。』
「事件の後、廃ビルで自殺?」と、一樹が呟く。
「いえ、自殺とは限らないでしょう。衰弱死ということは、餓死という事もあり得る。誰かに長期的に監禁され、何も与えられなければ、三日もあれば死に至ることもある。」
剣崎が一樹のつぶやきに応えるように言った。
「その廃ビルの出入の記録は?」と、剣崎。
『駅裏の廃墟同然のビルで、監視カメラなどありません。ただ、駅前のカメラで、水野裕也らしき、黄色い髪の男を発見しました。その男が、廃ビルの方角へ歩いていくのは、確認できたのですが、そこまででした。』
生方はできる限りの捜査はしているようだった。
「水野裕也と思われる男が確認できた日付けは?」と剣崎。
『駒ケ根の事件の翌日の昼前11時。事件の後、ここへ向かったという矢澤さんたちの捜査結果と一致します。事件を起こしてここまで来て、罪の意識で自殺という事もあるんじゃないでしょうか?』
と、生方が安直に答えると、剣崎が
「殺害して、松本まで来て自殺なんてあり得ないわ。それに、あの時感じた・。」
と、言いかけて、止めた。そして、レイを見た。
 レイは小さく頷いた。
それは、武田敏にシンクロした時、首筋に感じた皮手袋の手からは、罪の意識など微塵も感じなかったからだった。むしろ、悪への制裁、正義の鉄槌を降ろしているという、プライドのようなものさえ感じたからだった。
「水野裕也の遺体が見つかったのはいつ頃なの?」
と剣崎が訊く。
『それが・・我々が名古屋に向かった頃なんです。』
「発見のきっかけは?」
『住民からの通報でした。異臭がするから調べてほしいという匿名の電話のようです。現場に向かった警官が、ビル内を探しまわって、地下室で、ようやく見つけたようです。』
生方が言うと、剣崎が訊く。
「変ね。・・住民が異臭がするという電話をするくらいなら、現場に入った警官もそれほど苦労することなく遺体を発見できたでしょう?」
『ええ、そうなんです。遺体は殆んどミイラ化していて、臭気などはすっかり消えていたはずなんですが・・・。』
生方のあやふやな答えに、剣崎は黙り込んで、何か考えているようだった。
水野裕也が死んだことで、EXCUTIONER(死刑執行人)との繋がりの糸が切れてしまった。これも、EXCUTIONER(死刑執行人)が仕組んだ事ではないかと考えていたのだった。
「現場に行きましょう。生方、発見した警官に立ち会うよう、手配して!」
剣崎が言うと、すぐにトレーラーが動き始めた。駒ケ根インターから松本インターまで中央道でほんの1時間程度だった。
その間も、剣崎は一樹や亜美と事件について話し合っていた。
「剣崎さん、これ、駒ケ根の雑居ビルで回収したたばこの吸い殻なんです。水野裕也が潜伏していた部屋にあったので、剣崎さんのサイコメトリーの能力で、なにかみえるんじゃないかと・・。」
一樹は、剣崎にビニール袋に入ったタバコの吸い殻を手渡した。
「吸い殻?」
剣崎は、袋の中から吸い殻を一つ摘まみだして、そっと掌に載せた。
剣崎は、暫くそれを見つめた後、静かに目を閉じ、何かを念じるようなポーズを取った。レイは剣崎の手を握る。こうする事で、剣崎の能力がより研ぎ澄まされる事が判ったからだった。
剣崎の髪の毛が少し膨らんでいるように見える。
5分ほどの沈黙の後、剣崎は掌のたばこの吸い殻をぽとりと机の上に落とし、気を失った。しばらくして、剣崎が顔を上げる。
「少しだけ・・見えたわ・・。神戸由紀子に向かって罵倒していた。そして、神戸由紀子は何度も何度も頭を下げていた。詫びているのか、あるいは、脅されて許しを請うているのかは判らなかったけど。」
剣崎と手を繋いでいたレイが、付け加える。
「神戸由紀子からは悲しみの思念波が感じられました。後悔なのかも知れません。過去にあった何かを悔いている、そんな感じです。」
「水野裕也は、神戸由紀子のヒモのような存在だったはず。脅されるような関係とは思えないが・・。」
一樹が言うと、亜美も口を開く。
「水野裕也が謝罪するというなら判りますけど・・もっと以前に、神戸由紀子の秘密か何かを握っていて、その頃から脅していたんでしょうか?」
「弱みを握って脅していた。それから逃れて、駒ケ根に隠れていたのを見つけ、再び脅された?だいたい、神戸由紀子の居場所をどうやって突き止めたんだろう。ますますわからない事が増えてようだな。」
一樹が愚痴めいた言葉を口にしたころ、トレーラーは松本市内に入っていた。

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