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火葬の女性-1 [デジタルクライシス(シンクロ:同調)]

名古屋に着いたのは深夜遅くだったので、翌朝になって剣崎たちと会議をする事になった。
「戻ってきてもらったのは、新たな殺人が、言え、正確に言うと、殺人動画がアップされたからなのです。」
剣崎は、黒のスーツ姿で、いつもにもまして厳しい表情を浮かべていた。
「新たな殺人動画?」
と、一樹が訊き返した。
「これを見て。少し覚悟して見た方が良いかも。」
剣崎が言うと、モニターに映像が流れた。 
狭い空間に、全裸の女性が縛られて横たわっている。
手足には結束バンド、口にはテープが貼られている。身動きできない状態なのがはっきりわかった。暫くすると、蓋のようなものが閉められた。内部にカメラが仕込まれているのか、蓋が閉まった状態でも内部の様子がぼんやりと見える。周囲の壁が徐々に赤みを増して来ると、内部の様子がはっきり見えた。
急に女性が苦しみだし、口から泡を吹きだし、それと同時に、髪の毛が縮れ、火が着いた。女性の体には大量の水疱が広がり、炎に包まれていく。
「もう良いわ。」
剣崎が映像を止めた。
「見ての通り。女性は高温で焼かれて死んだわ。最後には、炭化していくところまで映っていたわ。」
剣崎は映像を最後まで見たようだった。
「まさか・・。」
と、亜美が呟くと、剣崎は亜美を見て頷いた。
「例の闇サイトにアップされていたのが発見されたのです。昨日、サイバーテロ対策本部から報告されたばかりでしたが、やはり、あのEXCUTIONERのサイトでした。女性の身元は、今、捜査中。映像からわかったことは、人を燃やす事の出来る高温の装置・・おそらく、大型の電気炉じゃないかということです。」
剣崎が答えた。
「この女性も、一連の殺人事件の延長なのでしょうか?」
と、亜美が訊くと、
「この女性は、例の安藤氏の奥さんになりすましていた女性でした。聞き取りをした県警の刑事に確認しました。」
剣崎が答えると、一樹が、スマホの写真画像を開いて見せる。
「これが、残されていたんです。おそらく、この女性は、MMというイニシャルなのでしょう。陶器の電気炉、そしてSGの場所・・・佐賀、滋賀、・・信楽・・信楽じゃないでしょうか?」
一樹は、少しずつ整理しながら、話した。
「信楽・・その可能性は高いわね。調べてみましょう。」
剣崎が、同意する。
「信楽には数多くの陶器メーカーがあるんでしょ?一つ一つ調べるつもり?」
亜美は少しげんなりしている。
「いや、今、稼働している工場という可能性は低い。今は使っていない、あるいは、倒産した製陶メーカーの電気炉を使ったという可能性が考えられます。そして、きっと、そこに何か一連の事件の鍵があるはずです。」
「レイさんの力を借りましょう。」
剣崎が言うと、亜美は驚き、反対する。
「あの映像をレイさんに見せるんですか?」
レイはシンクロする事で、本人と同じ感覚を感じることになる。火で焼かれるなどという感覚は地獄の苦しみに違いない。到底容認できるものではない。
「亜美の言う通りです。映像は余りに酷い。俺も途中で気分を悪くしていたくらいだったんです。レイさんには耐えられない・・シンクロすれば、レイさんもあの灼熱の苦しみを感じることになる。」
剣崎は二人の言葉をじっと聞いていた。
「レイさんは了承済みよ。昨夜、連絡したの。もうすぐ、ここへ着くはずよ。」
その言葉と同時に、トレーラーの外に乗用車が停まった。カルロスが豊橋にいたレイを迎えに行ったのだった。
「レイさん!」
亜美はレイの姿を見るとすぐさま駆け寄った。
「大丈夫です。自分が命を奪われるわけじゃないんです。」
レイはそう言って、亜美を宥める。
レイを乗せて、トレーラーが走り出す。名古屋から、伊勢湾岸自動車道を使い、四日市ジャンクションで新名神高速道路に乗って、ほんの2時間程度で、信楽へ着く。
走行中に、生方は、現在、休止か廃止されている工場のリストを入手し、地図と照合する。
走りながら、一樹は剣崎と今回の事件について話し合った。
「彼女が殺されたところから、単なるなりすましではなく、何かを隠すために替え玉が用意されたという事でしょうか?」
「殺され方が尋常ではないところから、EXCUTIONERにとって、神戸由紀子並に恨みが強い、あるいは、悪事の中心にいる人物と考えても良いのかも。」
「一連の殺人事件の根幹にある悪事の中心人物かもしれないという事ですか?」
「少なくともカギになる人物と言えるでしょう。」
「被害者たちが関与している悪事というのがまだ、見えませんね。」
一樹は、会議スペースのモニターに映し出されたこれまでの事件の情報をぼんやりと眺めている。
「東京、松本、駒ケ根、名古屋、信楽・・。風俗店、若い女性、整形、高級クラブ、覚醒剤。ペーパーカンパニー。神戸由紀子、武田敏、水野裕也、黄色い髪の男、安藤氏・・」
繋がっているようでありながら、共通しているのはEXCUTIONERだけ。これだけの情報があるにもかかわらず、何もわかっていないに等しかった。
「今回の被害者の情報で、全てつながるんでしょうか?」
一樹のつぶやきに、神崎も同じようにモニター画面を眺めながら、これほど不可解な事件を見た事がないと感じていた。

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