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火葬の女性-4 [デジタルクライシス(シンクロ:同調)]

次の日から、覚王寺善明の捜査を始めた。ただ、相手に気付かれないように慎重を期す必要があり、特に、警察内部の情報を収集するのは刺激するだけだと判断し、それ以外の情報源を探した。一番活躍したのは生方だった。
「ネットの裏情報にこそ真実が隠れているんですよ。」
生方は、何か仇を取ったような表情で、熱心にパソコンに向かっている。
一樹と亜美は、信楽の町で、覚王寺善明の別荘の様子を知る人物を探した。レイと剣崎は、カルロスを護衛にして、前之園美佳が殺された現場に行き、残っている思念波から何か掴めないかと動いた。
三日ほど経過した時、一樹と亜美のチームがようやく手掛かりになりそうな情報を得た。
「あの別荘へ、食材を配達している店を見つけました。」
それは地元の小さなスーパーだった。
老齢の店主は、顧客の情報を漏らすことに抵抗があったようだが、亜美が説得して話を聞けた。
「店主の話では、今まで定期的に、飲料や野菜、果物、肉などを届けたそうです。毎回、電話で注文してくるようですが、いつも尋常な量ではなく、そのためだけに市場へ買い出しに行っているそうです。」
一樹がメモを見ながら剣崎に報告した。
「受け取った人間は?」と、剣崎。
「例の黒服の男だったそうで、別荘ではなく、あの館へ運んだそうです。・実は、明日配達を頼まれているようで、同行できるように頼みました。入り込めれば、中で何がされているか、判るかもしれません。」
一樹の報告に剣崎は頷いてみたものの、一樹に行かせるのには、一抹の不安を感じていた。深入りしすぎて、捜査をしていることが発覚するかもしれない。
「判ったわ。じゃあ、カルロス。店主と同行して様子を見て来て。」
剣崎は、カルロスに同行を指示する。
「え?カルロスですか?」
「貴方が行くより、カルロスの方が安全だと判断したの。」
剣崎は少しめんどくさそうに答えた。
「あなたたちは、もう少し周辺情報を集めてちょうだい。特に、前之園陶業が覚王寺善明とどこで繋がったのかを調べて!」
一樹は渋々承知した。
生方から情報が報告された。
「ネットの裏情報では、覚王寺善明の資金源について以前にかなり取り沙汰されていましたよ。覚王寺自身、建設会社の会長ではあるんですが、その会社はさほど大きくない。地方の中堅程度です。それなのに、都心近くに広大な邸宅、あの別荘、他にも数か所の別荘があるようです。それに、裏社会との深いつながりがあるという記事を書いた記者が突然行方不明になったというのもありました。」
「資金作りのからくりについての記事は?」と剣崎が訊く。
「ええ、ペーパーカンパニーを多数持っていて資金源ではないかという記事が見つかりました。面白い事に、その会社名には共通点がある、頭文字がアルファベット二つだというんです。」
「MMコーポレーション、KN企画、NY物産・・そういうことか。」
一樹はそう呟くと、亜美とともに、前之園陶業の関係者を探し出すことにした。
信楽には、小さな工房から大量生産しているような大きな陶業メーカーが多数ある。そして、そうしたところに様々な材料を卸している問屋もある。さらに、製品を輸送するための運送業社や、工場の社員の生活に関連したところも多数ある。前之園陶業とつながりのある会社や個人商店も多数あったはずだった。
一樹と亜美は、一旦、駅前まで出て、陶業会館に向かい、陶業メーカーが加盟している協会事務局を訪ねた。だが、事務局の反応は冷たかった。
「前之園陶業さんは、先代までは協会に協力的でしたが、跡継ぎの息子の代になって、協会から脱会されたんです。」
「えっ?息子・・じゃあ、前之園美佳さんという方は?」
「ああ、息子の嫁ですね。跡取り息子は、社長を継いだ後、暫くして病気で亡くなったんです。それで、嫁さんが社長に。陶業はずぶの素人ですから、うまくいきっこない。倒産するのは判っていましたよ。」
「倒産の頃の様子は?」と一樹。
「さあ?・・協会とは疎遠でした。実際、ここらの問屋筋は、あそこと付き合わない事にしていましたからね。だが、意外にしぶとかったんですよね。」
「意外にって、どういうことですか?」と亜美が訊く。
「そりゃそうでしょ。問屋筋が付き合わないとなれば販路がなくなるわけですし、材料だって手に入らない。資金繰りが厳しいと判れば銀行だって相手にはしません。会社としては、成り立たないはずなんです。もって1年だろうって思ってましたから・・それが・・10年近くも倒産せずにいたんですから・・。ただ、不思議だったのは、陶器を作っていたのかどうか・・・あそこの社名の製品を見た事がなかったんでねえ。信楽のブランドを守るため、協会では粗悪なものだで回らないよう、日本中の売り場に並んでいる信楽焼について、調査しているんですが、前之園陶業の製品はキャッチできなかったんです。」
協会事務局の担当者はおしゃべりだった。
「でも、あそこの工場で働いていた人はいたはずでしょう?」と一樹。
「それも不思議なんですが・・信楽の住民で、あそこで働いていた人間はいないんですよ。女社長になってすぐに大量解雇があって、殆んどの職人も作業員も辞めさせられたんですよ。」
「その頃の職人とか作業員で、話が聞けそうな人はいませんか?」と一樹が訊く。
「どうでしょう・・。少し当たってみますが・・。」
事務局の担当者の答え方は期待できそうになかった。
協会事務所を出て、駅前にある土産物店に入ってみた。昔は看板娘と呼ばれたであろう、高齢な店員さんたちが二人を出迎えた。二人は、観光客のふりをして店内をゆっくり回った。話しが聞けそうな人物はいないか、探している。
「ねえ、あんたたち、警察の人だろ?」
レジの奥に座っていた一番高齢に見える店員が、一樹に声をかけた。一樹は、一瞬驚いたが、特に反応せずにいた。
「山の中の、前之園陶業で人殺しがあったんだって?自業自得ってやつだね。あんな女、殺されて当然さ。」
その高齢の店員は、吐き捨てるように言った。

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