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2-2 現場検証 [アストラルコントロール]

「ここでいいよ。ありがとう。」
零士はそういうとタクシーを降りた。桧山邸の玄関口が見える向かいの家の植え込みの中で、そっとそこに身を潜めて中の様子を探る。
すぐに、救急隊員が抱えた白い布がかかった担架が出てくる。救急車に素早く乗せられ、けたたましいサイレンを響かせて走り去った。
「ここが現場です。」
鑑識官の一人が指差す。
土間の上にある太い棟木からロープが垂れ下がっている。つい先ほどまで、桧山の遺体がそこにあった。土間には踏み台が転がっている。周囲に物色された形跡はなく、争ったような痕跡もなかった。
「自殺か?」
五十嵐が小さくつぶやく。そこに、武藤が入ってきた。
「特に遺書らしきものはなさそうだ。状況から見る限り自殺と判断してもおかしくはないんだが、なんとも。」
武藤の後ろに、背の低い老女の姿があった。
女性警察官が二人、寄り添っている。
「奥様です。」と、女性警察官の一人が告げる。
「遺体を発見されたのは奥様です。」
もう一人の女性警察官が言うと、その老女が思い出したかのように急に蹲って泣き始めた。とても話を聞けそうになかった。
「友人と会食に出かけ、帰宅されたところで、ご主人の遺体を発見されたようです。」
女性警察官が、奥さんの代わりに答える。
「こんな遅い時間まで?」と五十嵐が訊いた。
「学生時代の同窓生の集まりだったそうです。」と、再び、女性警察官が答えた。
「ご主人には自殺をするような動機があったんでしょうか?」
五十嵐が訊く。
「先ほど同じ事を訊きましたが、思い当たる節はないようです。ただ、最近週刊誌の記者らしき人物が家の周囲にいるのを見かけて、ご主人に訊いたそうですが、お前は知らんでいいと一喝されたそうです。」
「週刊誌の記者?」
五十嵐が訊くと、もう一人の女性警察官が、五十嵐の耳元にきて小さな声で告げた。
「建設会社の収賄事件のようです。まだ噂の段階ですから、正式に事件として警察としては動いていないんですが、どうも、その贈賄側と目されているとのことです。自殺の動機はそのあたりかと。」
「ふーん、そうなの。事件が明るみに出る前に命を絶つ。決定的な状況ならそういうこともあるでしょうが、まだ、その段階じゃないように思うけど。」
五十嵐はそういいながら、屋敷の中を見て回った。
鑑識官が、室内に侵入者の痕跡がないか調べている。
「どう?」と五十嵐。
「今のところ、怪しい点はなさそうですが・・。」
鑑識官は、五十嵐のほうを見ることなく、短く答えた。
そこに、山崎警部が現れた。
「遅くなった。どうだ、何かわかったか?」
山崎は、それとなくみんなに訊いた。
「今のところ、外部から侵入した痕跡は見つかっていません。」
「現場の遺留品も特に・・。」
それを聞いて、武藤が山崎に言った。
「自殺ではないでしょうか?収賄事件の噂もありますし・・。」
「自殺か・・。家族はどう言っている?」
「自殺の動機は分からないと奥様が・・。」と五十嵐が言った。
「どうします?」と武藤が山崎に訊く。
「遺体の検分結果が出ていない段階だ。自殺と他殺の両面で情報収集だな。武藤は桧山氏の最近の行動を洗い出せ。自殺・他殺の両方の見立てで動け。五十嵐は・・。」
山崎がそこまで言ったところで、五十嵐が庭を見て、奥様に訊いた。
「あれは?」

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