SSブログ

2-9 タクシー会社 [アストラルコントロール]

「どちらの可能性が高い?」と五十嵐。
「確か、家に戻った時、桧山氏は赤い顔をしていた。きっとどこかで飲んでいたんじゃないか。そうなると、令和タクシーの可能性が高いな。」
すぐに二人は令和タクシーへ向かう。市内にいくつかタクシープールがあったが、繁華街近くのタクシープールへ行った。
配車センターに入ると、すぐに、五十嵐が警察バッジを見せる。奥から責任者らしき初老の紳士が対応に出てきた。
「飯田と申します。ここの責任者をしていますが・・何か事件ですか?」
「いえ、昨夜亡くなられた桧山さんの行動を調べていまして、こちらのタクシーを使われていないかと思って。」
五十嵐が言うと、責任者の飯田は、表情を変えずに行った。
「桧山様には、いつも私どものタクシーを利用いただいていました。亡くなったと聞いて本当に驚いております。桧山様には、一日、ハイヤーという形で利用されていたんです。以前は社用車だったんですが、ハイヤーのほうがコストがかからないとかで、かなり頻繁に利用いただきました。」
「昨日も?」
「ええ、そうですね。ちょっと待ってください。」
飯田は手元にあったパソコンの画面を開いて配車表を見る。
「ええ、そうですね。工藤君の車だな。・・おい、工藤君は、今、どこにいる?」
振り返ってオペレーターに訊いた。
暇そうにしているオペレーターは急に声をかけられ慌てて居場所を探した。
「最近は、スマホから直接タクシーへ配車予約をする方が増えたんでね。オペレーターの仕事が激減ですわ。そろそろ、彼女も止めてもらおうかと思っているんですよ。」
全く無関係な話を、嫌味を込めて飯田が言った。
『いや、お前のほうが先にリストラじゃないか?』と、零士は心の中で呟いた。
「工藤さんは、今日は、乗車非番の日ですね。」とオペレーターが言った。
「おお、そうか。それなら、車庫にいると思いますよ。車両も置いているはずですが・・。」
飯田は窓越しにタクシーを探した。
「ああ、あれですね。」
黒塗りのタクシーを指さしているようだが、みな同じ車種なのでどれだかわからない。
「車載カメラはついていますか?」
五十嵐が訊く。最近は防犯のために車載カメラで客席を記録しているところが多い。
「つけているのもあるんですが、工藤君の車は、たいてい、桧山さんのご利用だったので、後回しになっていました。」
「ドライブレコーダーは?」と五十嵐。
「ああ、それならありますよ。多分、映像はSDカードで、ここにあるはずです。ちょっと待ってください。」
飯田はそういうと、奥の部屋に入っていき、すぐに出てきた。
「これが昨日の分ですね。うちは毎日、勤務終了時にSDを提出することにしてるんです。」
飯田はSDカードを見せた。
「お借りできますか?」
「ええ、どうぞ。」
「あの、工藤さんは非番だそうですが、自宅でしょうか?」と五十嵐が訊くと、先ほどのオペレーターが「いえ、車庫にいるはずですよ。彼は車の整備が本業なんで。」と答えた。
五十嵐と零士は、礼を言って車庫へ向かう。先ほど飯田が指さしたあたりの車両の脇に、男が座っていた。手には、何かの部品をもって磨いているようだった。
「あの、工藤さんですか?」
そういって、五十嵐が警察バッジを見せる。
工藤は、怪訝そうな顔で五十嵐を見た。まだ、若かった。
「俺に何の用です?俺、・・何も・・してませんよ。」
工藤は少し怯えるような声で答えた。
「いえ、昨日のことでちょっと伺いたいことがあるだけです。」と五十嵐。
「昨日?昨日は一日、仕事でした。朝から、ハイヤー予約があったんで、ほぼ一日、その人と一緒だったんです。その人に聞いてもらえばわかります。何もしてませんから・・。」
工藤は、持っていた車の部品を放り投げ、立ち去ろうとした。

nice!(3)  コメント(0) 
共通テーマ:趣味・カルチャー