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2-3 小屋 [アストラルコントロール]

指さした先には、広い庭の一角を占める小さな家屋があった。
奥さんは苦しそうな表情を浮かべて絞り出すように言った。
「離れです。」
指さした家屋には小さな窓があり、明かりが漏れていた。
「誰かいらっしゃるの?」と五十嵐。
奥さんは、さらに苦しそうに、唇をかみしめるような表情を見せた。
「御子息のようです。」と女性警官が代わりに答えた。
「息子さん?」
「ええ、もう20年近く引きこもった状態らしいですね。」
「引きこもり?」
そこまでの会話であきらめたのか、奥さんが口を開いた。
「息子は、大学時代に精神を病んでしまって・・あそこに、主人が閉じ込めたんです。」
「閉じ込めた?」と五十嵐。
「我が家の恥だと厳しく攻めた挙句、他人様に迷惑をかけるから出すなとか、とにかく、姿が見えないようにしろと言い出したんです。」
奥さんの言葉には、桧山への恨みとも思えるような印象があった。
「あそこは?」
再度、五十嵐が訊く。
「あそこは、もともと、使用人の家として使っていたところです。今は、そういう人もいないので、息子が暮らせるには十分でした。もちろん、食事はきちんと届けていました。必要なものがあれば私が・・。風呂もトイレもありますから不自由なことはなかったと思います。それに、主人がいない時は時々庭にも出てきていたんですが・・最近は、めっきりそういう姿も見なくなりました。」
五十嵐は話を聞きながら、その離れへ近づいていく。
ドアには大きな外鍵がついている。
「これは牢獄と一緒ね。時々庭に出ていたってどういうこと?」
「合図があると私が鍵を開けて、出られるようにしていました。鍵を開けてもすぐには出て来ないこともありましたが・・。」
「虐待よね。」
五十嵐は誰ともなく訊いた。
山崎が「ああ」とだけ答えた。
「じゃあ、ご主人が亡くなった時、彼はここにいたということかしら?」
「はい。でも、私は留守でしたから、外には出られないはずです。ですから、まだ、父親が死んだことは知らないでしょう。」
奥さんは悲しそうな表情でその離れを見た。
その離れは、窓らしきところには厚い板が打ち付けられ、小さな除き穴がついていた。そこから明かりが漏れている。中の様子は全くわからない。
「五十嵐、周辺捜査だ。他殺であれば、犯人が目撃されているかもしれない。」
山崎はそういうと、現場を離れた。
零士は、1時間ほど様子をうかがっていたが、鑑識官たちも、帰り支度を始めた。そろそろ撤収するのだろう。
しばらくすると、玄関から、武藤が飛びさしてきた。それから10分ほどして山崎が出てきたので、さっと身をかがめた。五十嵐はまだ中にいるのか、そう思って小巣をうかがっていると、五十嵐が出てきた。
その後ろを、初老の女性が出てくる。桧山の奥さんだった。二言三言会話をして、奥さんは警察車両に乗りこんだ。女性警官が運転してその場を離れた。
五十嵐は、どこか、納得できないという表情を浮かべたまま、走り去るパトカーを見送った。
五十嵐は、帰りの足がないことに気づいたが、通りまで出ればタクシーも捕まる。そう考えたのか、その場を離れ、通りへ向かった。
零士は、その一部始終を見た後、五十嵐の後を追った。
「さて、どう、声をかけたものかな・・。」
零士はそう呟きながら、徐々に、五十嵐と距離を縮めた。
五十嵐が急に、コンビニの前で立ち止まった。

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