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2-12 暗闇の女 [アストラルコントロール]

「夜10時頃だったと思います。次のバイトと交代する直前だったんで。最後の作業で、ごみを集めて外に出たんです。そしたら、ちょうど、ここに、赤い髪の女性が立っていました。」
三人が立ち話をしている場所だった。
「何をしていたんでしょう?」
と零士が訊く。
「わかりません。僕がごみ袋をもってここに…ああ、そこにごみの集積場があるんで、店内のごみを運んできたんです。コンビニの裏側になるんで、少し暗くなっているので、はっきりとは見えなかったんです。ごみを集積場に入れるときはそこのライトをつけるんですが、まだ、点いていなくて、薄暗い状態でした。ただ、赤い髪で青い服だとは分かったんです。ちょっと驚いて、声を出してしまったら、その女性は急いで走り去っていきました。」
「顔は?」と五十嵐。
「いえ、わかりません。一瞬だったんで。すみません。何かの事件ですか?」
と、バイト店員が訊く。
「いえ、ちょっと人を探してるんです。その赤い髪の女性はどっちへ行きました?」
と零士が取り繕うように訊いた。
「ええっと・・ああ、そうですね。住宅のほうへ行ったと思います。走り去ったと言いましたが、それほど早くなかった。そう、足元がおぼつかない感じでしたね。ふらふらしているといったほうがいいかも。」
店員が答えると、零士がさらに聞いた。
「酒でも飲んでいたんでしょうか?」
「いえ、アルコールの匂いはなかったと思います。・・時々、ここで、酒を飲んで座り込んでいる人はいるんですが、最近はなかったから・・。僕、お酒は飲めないので、そういう臭いは敏感ですから。間違いないと思います。」
バイトの店員は丁寧に答えてくれた。
「今まで、同じような赤い髪の女性を見たことは?」
と五十嵐。
「いえ、僕は初めてでした。でも、前に一緒に働いていたバイト仲間も、夜中に見たと言っていたと思います。ときどき現れるっていう感じかもしれません。」
「時々現れるって、買い物に?」と五十嵐が訊く。
「ええ、そうみたいです。たいていは深夜で、客がいない時間帯が多いようですが・・。」
「何を買っていたのか判る?」と五十嵐。
「聞いた話では、たいていたばこをひと箱だけ。現金で買っていくみたいです。銘柄は、マールボロだと聞いていますが・・。」
「ありがとう。バイトに戻って下さい。」と五十嵐が言った。
バイト店員を見送ってから、二人は、コンビニを離れた。
「赤い髪の女性は何がしたいのかな。昼間も夜も、出没しているのは確かなのに、誰も正体は知らないなんてことがあるかしら。」
五十嵐は不思議に感じて、独り言のように呟いた。
「そうだね。でも、何処の誰かなんて、わかる人のほうが少ないかもな。俺だって、取材の時、あちこちに出没する。服装も正体がばれないようにすることもあるし、はたから見れば怪しいのかもしれない。それを見た人に、彼は誰だ、なんて聞いても正体は知らないだろうな。」
零士が言うと、五十嵐は妙に納得したような顔をした。
「でも、それが誰かを突き止めるのが警察の仕事なのよ。」
と五十嵐が反論した。
「そうだな。大変な仕事だ。」
零士は正直に感じたことを口にした。すると、五十嵐の機嫌が急に悪くなった。
「なんだか、バカにされてる気分ね。」
「いや、そんな・・馬鹿にした覚えはないんだが。」と慌てて零士が取り繕う。
「冗談よ。判ってるのよ、そんなことは百も承知でこの仕事をしてるんだから。さあ、SDカードの中を確認しなくっちゃ。」

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