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3-9 間一髪 [アストラルコントロール]

アパートには、伊尾木がすでに到着していた。
小さな光となっている伊尾木は、零士の肉体に入り込む。そして、肉体から離れようとしている零士の意識を捕まえた。
『まだ早い』
意識の塊である伊尾木は、同じように意識の塊になっている零士と繋がる。零士の意識エネルギーがどんどん薄くなっていく。このままでは消えてしまう。
『仕方ない。』
意識の塊である伊尾木が強い光を発し始めた。それは、零士の意識の塊を包み込み、エネルギーを与え始めた。徐々に光を取り戻した零士の意識の塊が、肉体へ入っていく。
「うう・・。」
零士が目を覚ました。
それと同時に、剣崎やレイたちもアパートに到着した。ドアを変えて中に入ると、ベッドに横たわる零士の姿を見つけた。ベッドの上方には伊尾木の意識の塊が光っていて、マリアが部屋に入ると、すっとマリアの中へ入っていった。
「大丈夫ですか?」
レイが零士にやさしく声をかける。
「ええ、大丈夫です。でも、なんだか変な気分です・・自分の姿を天井から見下ろしていた記憶が残っているんです。」
零士は身を起こしながら答えた。
「臨死体験よ。・・あなたの魂が肉体から離れてしまっていた。伊尾木さんがそれを食い止めてくれたのよ。」
剣崎が言うと、零士は周囲を見回す。
「伊尾木さんは私の中。大丈夫?」
マリアが訊いた。
「僕は救われたということでしょうか?」
「ええ、そうね。・・やはり、あなたの近くにアストラルコントロールをしている者がいることがハッキリした。そして、あなたを操っている。また同じことがあれば、今度は助けられないかもしれないわ。」
剣崎が言う。
「もともと、そういう能力のないものが一時的に意識を飛ばされれば、戻る場所が判らなくなり、何度も繰り返すうちに、肉体を失う。・・死ぬということだ。」
マリアの声が急に男の声に変わっていた。
「だが、もう大丈夫だ。私の意識の一部を植え付けた。今度、同じことがあってもそう言うことにはならないだろう。・・いや、相手の能力の強さ次第なんだが・・。知る限り、私以上の能力を持った者はいないはずだ。」
伊尾木がマリアの体を借りて話した。
そうしているうちに、五十嵐がドアを開けて駆け込んできた。
「零士さん!」
そう声を発すると同時に、零士に飛びつき抱きしめた。
「五十嵐さん・・大丈夫だ、この人たちに救われた。」
零士は五十嵐の耳元で話した。
五十嵐は子どものように泣きじゃくっている。
その様子を見て、剣崎は、「きっと正体を突き止めます。」と五十嵐に言った。
「お願いします。このままじゃ、零士さんは・・。」
「ええ、わかっています。」
剣崎はそう言うと、皆を連れて、アパートを出た。
「それほど高い能力ではないけど、どういう意図で彼をコントロールしているのか、判らないわ。近くにいるはずなのに、捉えることができなかった。どういうことかしら?」
アパートの階段を下りながら、レイが呟く。
『彼の体の中に、思念波の残骸を見つけた。あの思念波を持つ人を見つければ止められる。』
マリアの体を借りて、伊尾木が思念波を発する。
「急ぎましょう。次に同じことが起きてしまえば・・。」
剣崎はトレーラーハウスに急いだ。

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