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3-15 スパイダー [アストラルコントロール]

『そうか・・思い出した・・・お前は・・。』
伊尾木が思念波を発して言った。
「ようやく気付いたようですね。伊尾木さん・・いや、ナンバー12。」
マスターが、伊尾木に向かって言った。
『お前はナンバー5、通称、スパイダーだな。たしか、シンクロとアストラルの能力を持っていた。だが、死んだと聞いていたが。』
「ええ、死んだことにしました。ちょうど、中東の紛争に送り出されて、作戦を遂行する前に、姿を消したんです。たしか、レヴェナントとか呼ばれていると聞きましたが・・。」
レヴェナントという言葉に、剣崎が体をビクッとさせた。
サイキックソルジャーとして、各国に派遣された者が様々な作戦に派遣され、失敗すれば存在を消される。ただ、それを逃れた者たちが、F&F財団の壊滅のための抵抗組織を結成した。それをレヴェナントと呼び、剣崎は、レヴェナントを追うチェイサーであった。だが、レヴェナント組織は壊滅したはずだった。剣崎の記憶からもほとんど消し去ろうとしていた名前だった。
「まだ残党がいたっていうこと?」
剣崎は動揺を抑えきれないままマスターに訊いた。
「いえ、私はレヴェナントにはなりませんでした。そもそも、こんな能力を持ったことを後悔しているんです。平凡な人生を送りたかった。姿を消して、しばらくは、シリア国境近くで、現地の人たちに紛れ、息をひそめて生きていました。・・しかし、組織はチェイサーを送ってきました。」
剣崎は鼓動が高まる。
「それでも何とか逃げ延びて、インド、中国を経て日本へ着いたのは、まだ2年ほど前です。」
いろんな苦労があったことは想像できた。
じっと話を聞いていた伊尾木が不意に言った。
『まさか、君も・・。』
「ええ、そうです。すでに自分の体は失くしました。チェイサーとの闘いで体はボロボロになり、捨てたんです。そこからは、伊尾木さんと同じ。今は、このマスターの体を借りているところです。」
マスターはそう言った。
「私たちのことはどこで?」と剣崎が訊く。
マスターは、小さく笑みを浮かべて答えた。
「ここにいるといろんな客が来ます。特殊犯罪捜査室の方もここへ来られたんです。私にはシンクロ能力がある。ちょっとその人の意識とシンクロしたら、剣崎さんやレイさんの情報を知ることができた。その時は、嬉しさと驚きと恐怖が混ざったような複雑な感じでしたね。」
「その時から今回のことを?」と剣崎。
「いえいえ、今回のことは偶発的なことです。客の一人が何とも言えない恐ろしい思念波を発していました。レイさんならわかると思いますが、悪事を働く人間には固有の思念波ができる。それを感じたんです。」
レイは、マスターの言葉を聞いて小さく頷いた。
「そいつは何度かここへ来ました。いつもパソコンを開いていて、時々、気味の悪い笑みを浮かべていました。ずいぶん気になったので、一度シンクロして意識を覗いたんです。意識の中で見つけたのは、本田幸子さんが起こした事件でした。正確に言うと、本田幸子さんに事件を起こさせるシナリオだったんです。」
皆、マスターの話に引き込まれていく。
「あの事件はそいつが描いたシナリオに沿って実行されたということなの?」と剣崎が訊いた。
「ええ、そうです。」とマスターは答えた。
「本田幸子がシナリオを彼に依頼したということなの?」
剣崎がさらに訊いた。
「いえ、違います。本田幸子さんがあの事件を起こすように巧妙に仕組まれていたんです。だから、射場さんをアストラルして現場の様子を見させた。事件の真相にたどり着けるようリード役をやれにやってもらったというわけです。」
「しかし、シナリオを描いた人間も、書かせた人間も結局捕まらなかった。」
レイが言う。
「ええ、その通りです。警察もそのことには気づいているようですが、確たる証拠がない。何より、本田幸子さんが、片岡優香さんを殺したいという思いは真実だからです。誘導されたとは思っていない。それほど巧妙なシナリオだったんです。」
一連の事件の深部がようやく見えてきた気がしていた。

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