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3-23 一歩 [アストラルコントロール]

思いも寄らぬ方向に動き始める。
だが、五十嵐が事務所で会った女性が石塚麗華なら、到底、鉈を使って頭を割るような殺害や、正氏を首吊り自殺に見せかけて殺すなど、できるとは思えなかった。
射場零士の夢でも、鉈を振るったのは男性だと言っていた。おそらく正氏を殺したのも同じ男性だろう。石塚麗華とその男性がぐるになって行ったと考えれば辻褄があう。
だが、これまでの現場検証では、そうした人物の存在さえ掴めないくらい、証拠が少なかった。
SNSの解析で、正氏の容疑者情報が発信されたのは、結城氏のPCからだと判ったが、それは、石塚麗華が結城氏が不在の際に使用したものだということはわかった。
結城氏は解放された。
彼の話を全面的に信用したわけではないが、加茂静香を名乗った、石塚麗華は今回の一連の事件に深くかかわっているのは間違いないだろうと、山崎も確信していた。
五十嵐は、零士の様子が気になって、署を早々に出て、零士のアパートへ向かった。
零士のアパートには、剣崎たちも来ていた。
アストラルコントロールを受けたために、零士はかなり危険な状態だったが、伊尾木の力で何とかつなぎとめることができていた。
「零士さん!」
五十嵐は、ベッドに横たわる零士を見て、思わず抱きついた。
「大丈夫だよ。彼女たちが助けてくれた。それより、正氏を殺した犯人のことなんだが・・。」
「犯人のこと?」
「ああ、夢を見た。正氏が梁にロープでつるされた現場を。・・・その時、男の腕に傷跡を見つけた。古い傷のようだった。火傷かもしれないが、右腕に大きな傷跡があったんだ。犯人を特定する証拠なんだが。もちろん、夢で見たことは証拠にはならないが、特定のヒントにはなるだろう。」
「古い傷ね。判ったわ。」
五十嵐は立ち上がり、部屋の外に出て、今の話を山崎に伝えた。
「石塚麗華の周辺にそういう男はいないか、調べてみよう。」
山崎からの返答を聞き、五十嵐は再び部屋に戻る。
「零士さんをアストラルコントロールしているのが誰か、突き止めたんですか?」
五十嵐は少しきつい口調で剣崎に訊いた。
「零士さんの命が危ういんですよ。もしかしたら、これまでの事件に深く関与しているかもしれないんです。どうなんですか!」
一層トーンを強めて五十嵐が訊く。
剣崎は、その様子が、紀藤亜美に似ているような気がして、わずかに笑みを浮かべた。
「ええ、見つかったわ。でも、彼は事件を防ごうとしていたのよ。いわば、私たちの側の人間だった。射場さんをコントロールしたのは、彼と射場さんの思念波がシンクロしやすかったからなの。」
剣崎の話した内容に、五十嵐は混乱した。
「意味が分からない。どうして?死ぬかもしれないってわかってやったというのなら、れっきとした殺人者でしょ?私たちの側って・・いったいどういうこと?」
五十嵐はかなり興奮している。
「五十嵐さん、落ち着いて。はじめからちゃんと説明するわ。」
そう言ってから、喫茶DREAMのマスターがアストラルコントロールをしていたこと、それは一連の事件を暴くために行ったことだと説明した。
「ここからが重要なの。実は、日本には、私たちのような特別な能力を持つ人間が他にもいるのよ。あなたが想像している以上にたくさんいるの。そういう能力を隠して生きている人間はほとんどなんだけど、中には力を悪用しようと思うものもいる。そしてそれをさらに操ろうとしている人間もいる。そして、残念ながら、それは、政治の世界ともつながっているのよ。」
一通り話を聞いて、五十嵐はある程度納得したものの、腑に落ちないことがあった。
「その・・DREAMのマスターは、今回の事件の黒幕を知っているんでしょ?なら、警察に通報して事件を止める方が正しいはず。どうして、零士さんの命を危うくしてまで、そんなことを?」
その点は五十嵐に言われるまでもなく剣崎も最初はそう思っていた。
「事件の黒幕もまた特別な力を持っている人間だからなの。DREAMのマスターではとても太刀打ちできないほどの力を持っている。だから、私たちを呼び寄せる必要があった。そのために、射場さんをアストラルコントロールしたという訳なのよ。」
「だからって・・。」
五十嵐はやはり納得できなかった。

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