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3-17 痕跡 [アストラルコントロール]

捜査は難航していた。捜査本部の片桐課長は机を叩く。
「加茂正、伊藤順次、いずれかが犯人に違いない。もっと、確実な証拠を見つけるんだ!」
居並ぶ捜査員は、大半が犯人は別にいると思い始めていた。課長の声に比べて、反応は鈍い。
山崎、武藤、林田、五十嵐の四人は、そっと捜査本部の会議室を出て、自分たちの部屋に戻った。
「片桐は、一度言い出したら他の人間の意見を聞かないからな。」
部屋に入るなり、山崎が言った。
片桐は山崎と同期だったが、昇進試験を突破して今の地位に就いた。もちろん、これまでにいくつもの難事件を解決してきた実績もあり、皆、当然だと思っていたが、時折、独善的になるところがあった。今回の事件では、それが悪い方向に出ていると山崎は思っていた。
「どうします?」と武藤が山崎に訊いた。
「犯人は別にいる。そうだな、五十嵐!」
山崎が不意に言った。
「ええ、あの二人ではないと思います。正氏はあえて自分の指紋の残る鉈を凶器に使う意味がありません。それに、伊藤順次も、殺すことで何の利益もありません。・・加茂善三氏を殺し、正氏を容疑者に仕立て、さらに、伊藤順次にまで疑いが向くように仕向けた人物がいるはずです。」
五十嵐はきっぱりと言った。
「第三の人物がいたとすると、きっと何か痕跡を残しているはずだ。もう一度、現場を調べる。武藤と林田は現場へ行け。五十嵐は、加茂善三氏と正氏の人間関係をもう一度洗いなおせ。」
山崎が言うと、武藤や林田、五十嵐がさっと部屋を出て行った。
加茂邸に着くと、武藤と林田が事件現場以外の場所もくまなく調べ始めた。
「例えば、身を潜めるならどこだ?」
武藤は屋敷の中を見回して呟く。加茂邸は豪邸だった。幾つも部屋があり、長い廊下、土間、昔ながらの台所があり、どこにでも隠れられそうだった。
「正氏が帰ってから、伊藤純次がここへ来るわずかな間に、善三氏を殺して、気づかれずに逃げる出すことができるだろうか?」
林田は土間や外へ続く出入口辺りを調べながら呟いた。
二人はいろんなシチュエーションを想定しながら、真犯人の行動を考え、怪しいと思うところを丁寧に調べた。
邸宅の裏口に二人が行くと、何か不自然さを感じた。
「なんだ、これ?」
それは、裏口の戸口だった。一か所だけ妙に光っている。ライトを照らしてみると、他と色合いが違う。武藤が鼻を近づけて臭いをかいでみると、かすかだが血の匂いを感じた。
「すぐに鑑識を呼ぼう。」
武藤がそう言って戸口を開ける。
そこには、竹藪が茂っていた。戸口を左に出れば、表通りに出られる。竹林の中に人が歩いたような形跡を見つけた。その先を見ると、裏道がわずかに見えた。
「ここから逃走したのかも。」
林田が足を踏み入れようとしたが、武藤が止めた。
「鑑識が来るまで触れない方がいい。それより、あの裏道へ回るぞ。」
武藤と林田は、一度邸宅の裏口から表通りに出て、竹林を目印にぐるりと屋敷を回った。真裏にやや狭い道路が走っていた。
「ここに車を止めていて、逃走したようだな。」
周囲をくまなく調べてみると、道路の中央あたりに、ぽつりと黒いシミのようなものがあった。
「これは・・。」
「おそらく犯人の衣服に付着していた血液だ。鉈で頭を割ったのだから、返り血を浴びていても不思議じゃない。やはり、真犯人は別にいるようだな。」
武藤が言う。しばらくすると鑑識班がやってきた。すぐに、裏口や竹藪の中から、被害者、善三氏の血液型と一致する血痕だと判明した。
「凶器の指紋、ドライブレコーダーの映像に、囚われすぎていたようだな。もう少し、慎重に事件現場を見なくちゃいけない・・。」
武藤が呟く。

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