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3-22 思い違い [アストラルコントロール]

結城は、山崎や五十嵐とともに、署に入った。
「議員は・・自殺だったんでしょうか?」
取調室に入るなり、結城は山崎に訊いた。
「それは、こちらが訊きたい。状況からみれば自殺のように見えるが、善三氏の殺害を考えると、そうとは思えない。我々は、あなたがやったのではないかと考えているんですよ。」
「馬鹿な!どうして私が」
結城は机を叩いて抗議した。
「善三氏殺害の際、あなたが提出したドライブレコーダーの映像で、正氏や伊藤順次氏に疑いが向くようにし、さらに、正氏が父親を殺したというSNS情報を流し、正氏を失脚させて、自殺に見せかけて殺した。そういう一連の行動を起こす動機があなたにはあるはずだ。」
山崎が詰め寄る。
「動機?私が善三氏の子ども・・妾の子だったからですか?それを恨んでいるとでも?」
「違いますか?」
「恨むどころか・・私は善三氏にはお返しできないほどの恩を受けています。」
「恩?」と隣にいた五十嵐が言った。
「ええ、実は私は、善三氏の実の子どもではないんです。善三氏は、身重な母と出会い、援助をしてくださっていた。母は暴漢に襲われ妊娠し私を産んだ。そんな身の上を哀れに感じ、ずっと援助してくださったんです。善三氏は私の母を妾だとは思われていなかった。確かに、善三氏の奥様から見れば同じことだったのかもしれませんが、そういう関係ではなかった。働き口のない私を事務所に入れてくださって、多くのことを教わりました。」
「じゃあ、なぜ、SNSで情報を流したんですか?」と五十嵐。
「私じゃない。そんなことするはずもない。」
結城の発言は信用するに値するものだと山崎は感じていた。
「次の選挙では、あなたが正氏の地盤を継いで議員になると目されていたのを善三氏が反対し、孫娘を市議にという話もあるようですが・・。」
「そんなことはありません。善三氏は私を市議に通してくださいましたが、私が辞退を申し上げました。そういう身分ではないし、私は表舞台より秘書として働く方が良いと思っています。いえ、正直に言えば、事務所に入る前、良からぬ世界に関わっていたこともあり、過去の経歴を思えば、市議になんて慣れるはずもないんです。」
当初想像していた結城氏の人物像とは真逆だと五十嵐も感じていた。
「昨日、事務所に伺った時、加茂静香さんにお会いして、事務所で揉め事があったと伺いましたが、揉め事とはどんなことですか?」
五十嵐が唐突に質問した。
「お嬢様に会った?」と、一瞬、結城が驚いた表情を見せた。そして、頭をかしげた。
「ええ、マスコミが騒いでいたので、隣の雑貨店の裏口から事務所へ伺って・・電話番蔵しか仕事がないと話されていましたが・・。」
五十嵐が答えると、さらに、結城は不思議な表情を浮かべた。
「どうしました?」
「いえ・・確か、お嬢様は、まだアメリカにいらっしゃるはずです。次の選挙に出るために、見聞を広げたいと言われ、もう半年近く行かれたままです。それに、先代が亡くなったことを電話でお伝えしましたが、すぐには戻れないという返事があって、確か、帰国は明後日のはずですが・・。」
結城はそう言いながら、スマホを取り出して、フォトを開く。
「この方でしたか?」と、結城が見せた写真を五十嵐が覗き込む。事務所で会った女性とは全く別人だった。五十嵐が首を横に振ると、結城はさらに写真を見せる。
「これは事務所の職員です。この中にいますか?」
映っていたのは、結城のほかに男性と女性が一人ずつ。
「この人です。」と五十嵐が答える。
「やはり、そうですか・・・。彼女は、ふた月ほど前に雇った女性で、石塚麗華といいます。議員・・いえ、正氏からの推薦があって事務員として雇ったんですが・・実は、彼女が事務所の金を横領していることが判り、2週間ほど前に解雇したんです。事務所の合鍵を作っていたんでしょう。」
「しかし、あなたが議員と別荘に隠れていることを知っていましたよ。」
「きっと正氏が連絡したんでしょう。私も雇った後に知ったんですが、彼女は正氏と男女の仲だったようなんです。そのことを知った善三氏は激怒されていました。そういうことには厳しい方でしたから。そのうえ、横領ですから・・・。」

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