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3-16 意識世界 [アストラルコントロール]

五十嵐は、零士のアパートにいた。
零士は一時の危険な状態は脱したものの、まだ完全な状態ではなく、ベッドに横になって眠っているようだった。
「大丈夫?」
五十嵐は、零士の顔を覗き込み、囁く。
ふっと零士が目を開け、「ああ」と吐き出すように呟いた。
「事件は?」と零士が訊いた。
「捜査本部は、残された凶器から指紋が検出されて、殺された加茂善三氏の息子、正氏を第一の容疑者にしたの。私が聴取したわ。それから、善三氏が交通事故を起こした相手の夫、伊藤順次を次の容疑者として事情聴取をしたの。どちらも殺害は可能で動機もある程度はあるけれど、決め手がないまま。振出しに戻ったというところかしら。」
五十嵐は、零士が見た夢のことを考えれば当然の結果だとわかっていて、少しげんなりしたように言った。
零士はそれを聞いていて、ふと思い出したことがあった。
「犯人は、正氏から出て行った直後に、迷いもなく鉈を振り下ろした。突発的なことじゃない。かなり周到に計画していたはずだ。凶器の鉈を使ったのも、正氏を犯人にするつもりだったはずだ。加茂親子に恨みがある人物だと思うんだが・・。」
「捜査本部も、同じような考えで、加茂善三氏の周囲を再捜査しているわ。」
「鉈で頭を割るのはそれ程容易いことじゃない。かなり使い慣れた人物じゃないだろうか?」
「そうなると、やはり、正氏が疑わしくなるわ。あの鉈は、正氏が日ごろから使っていたものらしいから。数日前に、善三氏に頼まれて、薪割りをしたと供述しているのよ。」
「そうか・・。」
零士は、横になったまま、天井を見つめていた。
「伊藤順次が容疑者になったのはなぜ?」と零士が訊く。
「ドライブレコーダーの映像に、伊藤順次が加茂邸に入っていくのが映っていたの。時間的には、殺された時間と一致するらしいわ。脅迫していてお金をもらう約束だったと供述しているわ。」
「いや、彼は犯人じゃないだろう。殺されたのは正氏が部屋を出てすぐだった。伊藤順次が家に入ってくれば正氏と鉢合わせになるはずだし、時間のずれがある。」
「もう一人、誰かがいたということよね。」
「ああ、おそらく、犯人は、正氏が家に来る前から潜んでいた。そしてタイミングを見計らって殺害した。そして、次に、伊藤順次が来ることも知っていたのかもしれない。」
「二人の行動を知っていたということ?」
「ああそうだ。いや、そうなるように二人に仕組んだのかもしれない。」
「そんなことできる人間がいるのかしら?」
二人はそこで沈黙した。
零士は、五十嵐との会話を頭の中で整理していたが、徐々に疲れを感じ始めていた。
「少し休んで・・私は、捜査本部に戻るわ。」
五十嵐がそう言って立ち上がる。
「無理しないでね。」
「ああ・・。」
五十嵐がドアを出ていくと、零士は少し眠った。
不意に、頭の中に何かいるような感覚がした。あの夢の世界へ入り込む感覚とは違う。意識の中で、零士はその何者かを探り当てようとした。脳の中ではなく自分の意識世界の中。夢とは違う、広く真っ白な空間で、小さな光のようなものが遠くにいる。異質ではあるが、決して敵対するものではなく、自分の存在を支えてくれているような感覚だった。
「なんだ?」
意識世界の中で零士が言葉を発した。
小さな光が点滅して返事をしたような気がした。
「アストラルコントロールの正体か?」
再び零士が言葉を発する。小さな光は、それには反応しなかった。
しばらくすると光は徐々に大きくなり、零士の意識世界を満たしていく。何か、安心感のようなものが広がり、零士は深い眠りについた。

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