SSブログ

3-13 取調室 [アストラルコントロール]

「警察です。少しお話を伺いたいんですが・・。」
林田がそう切り出すと、伊藤順次はいきなり、卓を押し倒して走り出した。
そして、狭い店内のいくつかの卓を囲んだ男たちを押し倒すようにしながら、出口へ走った。
「はい、公務執行妨害の現行犯だ!」
出口で待っていた武藤が伊藤を壁に突き飛ばして逮捕した。
署に戻ると、取調室で武藤と林田が伊藤に向き合っていた。
「あれだけ派手に騒いだんだ。今日は留置場に泊まってもらうほかないな。」
林田はあきれ顔をして言った。
伊藤は、返答もせずに、椅子に座り天井を見上げていた。
「おとといの夜はどこにいた?」と林田が訊いた。
「おととい?多分、雀荘だ。オーナーに訊いてもらえばわかるさ。」
吐き捨てるように伊藤は答える。
「加茂善三氏が亡くなったのは知っているか?」
武藤が試すように訊く。
「ああ、ニュースで見た。頭を割られて殺されたってなあ。自業自得だろう?あんな事故を起こしておいて、補償さえすれば済むなんて言ってる奴だったから、天罰だ。」
伊藤は笑みを浮かべて答えた。
「お前じゃないのか?」
林田がきつい口調で訊いた。
「なんで俺が?妻や子を殺されたって恨んではいるが、殺すほど愚かじゃない。」
「殺してしまえば、金が手に入らないからか?」
「関係ないだろ!」
伊藤は明らかに動揺していた。
「補償額では満足できず、善三氏や息子の正氏にも金をせびりに行ったんだろう?」と武藤が訊く。
「人聞きが悪いことを言うな。誠意を見せてくれと言っただけだ。そしたら、金をくれた。ああいう金持ちの誠意というのは金だけなんだ。謝罪の言葉さえないんだぞ。腐ってる奴らさ。」
「そうじゃないだろ?金をせびりに行って断られ、かっとして殺したんじゃないのか?」
武藤がさらに追及する。
「おいおい、こっちは被害者なんだ。妻や子を殺され、これから俺は一人で生きなきゃならん。それなりに補償があったってなあ。一生困らないくらいじゃなくちゃ。」
「お前は無職でギャンブル狂い、奥さんが必死に働いて何とか生活をしていたのはわかってるんだ。お前からすれば金づるを無くして、加茂氏を脅迫したんだろうが、それもれっきとした犯罪なんだ。じっくり調べてやるからな。」
武藤は、ネクタイを緩めて、椅子に座りなおした。
「もう一度訊く。おとといの夜はどこにいた?」
「だから、雀荘だって。」
「ほう・・じゃあ、これは誰だ?」
林田は自分が発見したドライブレコーダーの映像を伊藤に見せる。
伊藤の顔色がみるみる変わっていく。
「これはお前だな。加茂善三氏の家に入っていったよな。」
武藤が訊く。伊藤はしばらく目を伏せ口を噤んでいた。
「なんとか言えよ!」
武藤が机を叩いて脅すように言う。
「俺じゃない!俺じゃないんだ!」
悲痛な叫びのような声が取調室に響く。武藤と林田は反応せずじっと伊藤を睨みつけていた。
「確かに、あの日、加茂の家には行った。金を受け取る約束だった。だが、一向に連絡をよこさないんで、尋ねて行った。」
「金を払わないのに頭にきて殺したんだな。」と武藤が言う。
「そうじゃない。俺が部屋に入った時、もう死んでいた。鉈で頭を割られて・・。そしたら、外でパトカーのサイレンが響いた。このままじゃ、犯人にされると思ってすぐに逃げたんだ。何も触っちゃいない。信じてくれ。俺じゃない。」
伊藤はそう言いながら涙を流している。
山崎が隣室から一部始終を見ていた。そしてぼそりと呟いた。
「奴はホンボシじゃないな。」

nice!(4)  コメント(0) 
共通テーマ:趣味・カルチャー