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3-14 アストラルの能力 [アストラルコントロール]

「射場さんの中にあった残骸の思念波にようやくシンクロできました。」
レイは、伊尾木が見つけた思念波の残骸に何度もシンクロして、ようやく手がかりを掴んでいた。
「やはり、この近くで同じ思念波を感じます。・・でも、かなり弱くなってる。」
レイは目を閉じたまま、すっと立ち上がり、思念波を感じる方角に向いて立った。
「とにかく、感じる方向へ向かいましょう。」
剣崎がレイに言うと、トレーラーを出た。
マリアもレイが感じている思念波が判るようになってきた。
『この先だ』
伊尾木が思念波で皆に伝える。
『ここだ』
そこは、零士が立ち寄る喫茶店だった。皆、店の中に入る。店内に客はいなかった。
「いらっしゃいませ。」
カウンターの向こうに、白髪交じりのマスターらしき人物が座って迎えた。
「ようやく、いらっしゃいましたね。」
マスターは剣崎たちが来ることを予見していた。
「さあ、どうぞ。私に訊きたいことがたくさんあるでしょう。まあ、座ってください。今、おいしいコーヒーを淹れますから。」
アストラルコントロールをして、零士を命の危機にさらした人物とは思えない柔らかい物腰だった。
マスターは、コーヒーを運んでくると隣の席に座った。
その間、レイは、シンクロしているマスターの思念波の中に入り込もうとしたが、バリアされていて入れなかった。
「さて、どこから話しましょうかね。」
マスターに焦りは感じられない。
「あなたが射場さんを操っていたのは間違いないですね。」
はじめに、剣崎が訊いた。
「ええ、そうです。彼の思念波はシンクロしやすかった。」
事も無げにマスターは答えた。
「何のためにあんなことを。射場さんの命を奪うかもしれないとわかっていたんでしょう?」
今度はレイが訊いた。これにはマスタは少し考えていたが、
「簡単に言えば、正義のためです。射場さんの命を危険にさらすことはわかっていましたが、彼もある意味では罪人です。殺人や不倫、不正不祥事、そういうのをネタに人のプライベートに入り込み、知られたくないことも容赦なく暴いていた。結果、随分多くの人を傷つけ、中には精神を病んでしまった人もいる。」
「正義?殺人事件を起こして、それを射場さんに解かせて・・全く意味が分からない。」
剣崎が、腹立たしさを言葉にした。
「殺人事件を起こしたのは私じゃない。殺人犯を見つけるために協力しているだけですよ。」
マスターが答える。
「あなたが、彼らを操って殺人事件を起こしたんじゃないの?」
レイが訊いた。
「当たり前でしょう。殺人事件を起こす側なら、なぜ、その犯人を暴く必要があるんです。そちら側にいるのなら、徹底的に隠し通す。いや、完全犯罪にすることだってできるんですよ。」
「しかし、射場さんは必ず殺人現場にアストラルされていたじゃないですか?殺人事件を企てる者にしかわからないはず。あなたが彼らを操っているんじゃないの?」
予想していた答えとは真逆の内容に、剣崎も驚いて訊いた。
「剣崎さん、そんな単純なことじゃないんですよ。これは、日本の闇に関わることなんです。事件などは単なる事象に過ぎない。だからこそ、あなたたちがここへ来るように仕向けたんです。これ以上は、私の能力ではどうしようもないんです。」
マスターが答える。
「ここへ来るように仕向けた?」
「ええ、そのために、射場さんを使い、五十嵐さんや山崎さんに繋いだ。そして、その情報を特殊犯罪対策課がキャッチできるようにもしたんです。もっと早く来ると思っていたんですが・・最初の殺人事件の直後には会えると思っていたんですが・・。」
一連の話を、マリアの体の中にいる伊尾木はじっと聞いていた。

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