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FINAL1 因縁 [アストラルコントロール]

それから数日は特に事件は起きなかった。スパイダーの行方は依然として掴めないままだった。
『どうにも釈然としない』
伊尾木が苛立ったような思念波をみんなに送った。
「どうしたの?」と、トレーラーハウスのベッドで横になっていたマリアが、起き上がってから、不思議な顔をして訊いた。
会議スペースにいた剣崎とレイも、驚いてベッドルームに顔を見せた。
『スパイダーは、公園から逃げた後、立て続けに二人の命を奪ったにも関わらず、そのあと全く動きを見せないのは何故だ?』
伊尾木の苛立ちは、剣崎やレイも同じだった。
「次のターゲットを探しているが、見つからないってことじゃないかしら?」
剣崎がマリアの横に座って答えた。
『拘置所にいる者はどうだ?』
三つの事件の犯人は、拘置所にいる。彼らへの制裁を行うかもしれないと考えていたが、幸い無事のようだった。
「山崎さんからは特に連絡はないわね。」
『レイさん、何か感じないか?』
ドアの近くの椅子に座っていたレイに伊尾木が訊く。
「射場さんの思念波も、スパイダーの思念波も捉えられないんです。」
『そうか・・・やはり釈然としないな。』
伊尾木はそう言って沈黙した。
「あれから、射場さんの手帳を手に入れて調べてみたんだけど、ターゲットになりそうな人物はかなりいるのよ。絞るのは難しいんだけど、ちょっと気になる人物がいたわ。」
剣崎はそう言うと、会議ルームへ戻ってから、モバイルPCを抱えて戻ってきた。そして、ベッドルームのモニターに、ある人物を映し出した。
「以前、射場さんが誤認逮捕された事件。取り調べたのは山崎刑事。すぐに無実だと判ったんだけど、この事件、まだ犯人が逮捕されていないの。」
剣崎はそう言うと事件の概要をまとめた画面に切り替えた。
「4年前、師走の繁華街で傷害事件が起きた。被害者は、小松原雄一。県会議員の長男で、繁華街に入り浸っているような不埒な所業で、その日は、大通りから一本入った通りで、背後からアイスピックのようなもので刺されて倒れた。通行人も多数いて、すぐに救急搬送され一命はとりとめた。通報を受けて警察が非常線を張ったところ、目撃者の証言した犯人と服装や背格好が似ている射場が容疑者となって、山崎の取り調べを受けることになったということなの。」
剣崎が短くまとめて事件の経緯を説明した。
射場は、小松原雄一を取材対象として一か月近く追っていた。正確には、小松原雄一の父親の収賄疑惑を取材し、その長男がガードが甘いと踏んで、取材を進めていたのだった。だが、これといった情報が掴めず、突撃取材を決行しようと考えていた時に、事件が起きた。
結局、容疑者となったために、小松原に接触することはおろか、週刊誌側からもネタの持ち込みを断られ、業界の中では、射場は信用を失って、事実上干されてしまった状態にまで陥った。
事件自体も、多くの目撃証言があるにもかかわらず、犯人にはたどり着けず、迷宮入りしていた。
「この事件の犯人を探しているのかしら?」
レイが剣崎に確認するように言った。
「犯人を特定するのは無理でしょうね。」と剣崎が答える。
「射場さんはすぐに釈放されたんでしょ?」とレイ。
「ええ、そうみたいね。現場近くにいたのは事実だったようね。目撃者の証言で、服装と背格好が一致したこと以外は何もないわけだし、射場さんも取材していたことを証明したようね。写真とか取材メモとか全て提出させられたみたいだし。やっていないことを証明するのは難しいはずだけどね。」
剣崎はそう言いながら、何か引っかかっているようだった。
「どうしたの?」とレイ。
「何か、この事件、不自然なのよ。ひと気の多い繁華街で、脇の通りに入った場所とはいっても多くの通行人がいる。そこでわざわざ実行している。それに、致命傷でもない。リスクが高すぎるでしょ?しかし、犯人は特定できていない。射場さんが容疑者となったのも、特徴的な服装だったことだけなの。カーキ色のロングコートと皮のリュックサック。でも、彼はもっと目立つ大きなカメラを持っていた。証言にはカメラのことは一切出て来ない。不自然なのよ。」
レイは剣崎の話をじっと聞いていた。

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