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3-26 偽物 [アストラルコントロール]

五十嵐は、零士のアパートに着いた。
零士は起き上がっていて、ぼんやりとコーヒーを飲んでいた。
「大丈夫?」
五十嵐は部屋に入るなり、零士に訊いた。
「ああ、もう大丈夫だ・・それより、事件のほうはどうなった。さっきニュースで、容疑者が自殺したと報じていたけど・・。」
「ええ、容疑者の一人、三上が自殺したわ。」
「そうか・・。」
それから、五十嵐は、これまでの捜査でわかったことを説明した。
「おそらく僕が見たのは、その、三上なんだろう。・・これで事件解決かな?」
「いえ・・今回の一連の事件の首謀者は、三上に刺されたと言っている石塚麗華だと考えているの。でも、彼女が三上に指示してやらせたという証拠がないのよ。このままだと、彼女は、被害者の一人として罪に問われないことになるわ。」
「そうか・・。」
零士はそう答えてからコーヒーを飲んだ。
「剣崎さんたちは?」
不意に零士が五十嵐に訊いた。
「トレーラーハウスに戻って真相を突き止めると言っていたようだけど・・。」
「そうか・・。ところで、石塚麗華はどういう女性なんだ?」
「一度、事務所で会ったけど・・・そうね、可愛い感じの女性、自殺した三上の大学時代の知り合いで、一時同棲もしていたらしいわ。男に近づくのはうまいようね。加茂正氏とも関係をもって、それをネタに事務所に入り込んで、横領までやったようよ。」
五十嵐の説明はシンプルだが、彼女への憎悪のようなものを感じた。
「石塚麗華が三上に殺害を実行させたとすると、二人の関係はかなり深いことになる。三上が入れ込んでいたか、弱みを握られていたか、それとも、金目的だったか・・。」
五十嵐は零士の推理をじっと聞いていた。
「二人も殺害したんだ。相当な覚悟だったはずだし、ばれないという確信があったともいえる。そのあたりはどうなんだ?」
五十嵐は、零士の言葉が、時々、山崎と重なるような妙な感覚を感じていた。
「今、そこを調べているわ。」
「今回、加茂善三氏の殺害では、正氏が出て行って、伊藤順次さんが家に入ってくる、わずかな時間の空白を使って実行していた。結城氏の車のドライブレコーダーに伊藤順次さんが映ることも計算していた。正氏殺害は、結城氏が不在の時間を確実にわかっていて実行している。これだけのことをやるには、石塚麗華と三上は、かなり綿密に連絡を取っていたはずだ。スマホやパソコンは調べたのか?」
アストラルコントロールで現場を見るという特殊な経験がなくても、射場零士には、刑事と同じほどの推理力がある事を五十嵐は認めざるを得なかった。
「山崎さんに連絡してみるわ。」
五十嵐は山崎に連絡して射場零士の話を伝えた。
「だが、本当にこれだけのことを、石塚麗華一人で考えたとも思えないな・・。」
「裏で手引きしていた人物があるってこと?」
「前の二つの事件もそう。一連の事件ではきっとまだ裏があるような気がしてならないんだ。」
「剣崎さんたちが今調べてくれているわ。何か途轍もないことが判るかもしれないわ。」
それを聞いて、零士も納得した様子だった。
「腹が減ったな・・。何か食べに行くか。」
そう言って、零士は立とうとしたがまだ万全ではなかった。
「何か出前でも、取りましょうよ。」
「ああ、そうだな・・そうしよう。」
「何が良いかな・・。」
「体力がつくものが良いわね。これなんかどう?」
そういうやり取りをしている最中に、スマホが鳴って、山崎から連絡が入った。
「はい、わかりました。病院へ向かいます。」

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