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4-1 マスターの記憶 [アストラルコントロール]

剣崎たちは、トレーラーハウスのディスプレイ画面で、これまでの事件を整理していた。
はじめの本田幸子の事件、次の桧山平一郎の事件、そして、今回の加茂親子殺害事件。
「これまでの犯行を指南した人物はだれなの?」
剣崎が、マスターに訊く。
「客の一人だ。彼が店に来る日の翌日には事件が起きていた。何かのルーティンなのかもしれないが・・奴の思念波に入り込んでみたんですが、正体までは掴めませんでした。おそらく奴も私たちと同じサイキックでしょう。」
「何がやりたいのかしら?」とレイが訊く。
「わからない。ただの愉快犯なのかもしれないが・・。」とマスター。
「パソコンを見ていたのなら、殺したいと思う人間を見つけているということかしら?」とレイ。
「そうなるように操っているのかも・・マリアのような力があるなら、相手の思念波にシンクロして殺害へ向かうようにコントロールすることはできるでしょ?」
剣崎が言うと、マスターが頷きながら答えた。
「ああ、そういうことかもしれない。その気になった人間に、殺害の計画を送り付ける。それを実行していくことを楽しんでいるのかもしれない。だが、ただの楽しみのためとも思えないが・・。」
マスターの話を聞きながら、剣崎は、少し引っ掛かることがあることに気づいた。
「ねえ、マスター。射場さんをアストラルして確実に、事件現場に送っていたでしょ?どうして、事件の現場が判ったの?」
剣崎の質問に、急にマスターの顔色が変わる。
「そうね、殺害の現場なんて予想できるものじゃないわ。ピンポイントでその場に零士さんをアストラルすること自体、かなり難しいはず。どうしてかしら?」
レイも訊いた。
「実は・・」と、マスターが重い口を開く。
「私は、断片的でかなり限定的ですが、次の日のことが予知できるんです。」
剣崎もレイもマリアも驚いていた。
今まで何人かのサイキックと出会ったが、予知能力を持った者にはあったことがなかった。
『片鱗はあったと記憶している』
マリアの中の伊尾木が言う。
『財団の研究所で予知能力の研究もされていたが、自在に使える者はいなかった。だが、スパイダーは、その能力があると見られていた。』
「ええ、そうです。中東での作戦決行の前日、私は失敗すると予知しました。失敗すれば消されるのが宿命。だから、私は行方を眩ませた。そのまま、静かに暮らすつもりだったんです。」
「だが、ハンターに追われ、点々としてここへたどり着いたというわけね。」と剣崎。
自らハンターの一翼を担っていたことを思い返しながら言った。
「今回の事件の背後にいる人物は、財団の研究所にはいなかったのかしら?」とレイが訊く。
「記憶の限りではそれらしき人物は思い当たりません。」とマスターが答える。
「店に何度か来ていたということは、この辺りに住んでいるということかしら。」
レイがマスターに訊く。
「どうでしょう。ただ、随分若かったように思います。」
『スパイダーの記憶を共有してみてはどうか?』と伊尾木が言う。
「そうね・・。レイさん、お願い。」
剣崎に言われて、レイがマスターの手を取る。そして、目を閉じて集中した。レイがマスターの思念波とシンクロする。そして、剣崎とマリアもレイに触れる。
4人の思念波がシンクロしていく。
「マスター、その時の様子を思い出して!」
レイが言う。より鮮明に記憶にシンクロするためだった。
その人物が、喫茶店のドアを開けて入って来て、奥の席へ座る。マスターが席に行き、注文を取る。その人物は顔を上げず、コーヒーを注文し、そのまま、手元にあった黒い皮のカバンからパソコンを取り出して開く。マスターがコーヒーを淹れながらその人物を見る。画面を見ながら、笑みを浮かべている。うつむいているために顔ははっきりしないが、その口元には笑みが感じられた。マスターがコーヒーを運んでくると、その人物は外を見る。マスターが戻ると再びパソコンを覗き込んだ。
マスターの記憶はその先で曖昧になった。
皆、目を開けた。
「この人物を探すということね。」と剣崎は言った。

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