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FINAL6 存在価値 [アストラルコントロール]

『組織から逃れるため、思念波だけの存在になった私は、多くの人の体を借りて今日まで生きてきた。そのたびに、その人が抱える悲しみや苦しみを知った。同時に、悲しみや苦しみを生み出す諸悪の根源を知った。すべて理不尽だった。この日本には、警察や司法では裁かれない悪が数多く存在している。そのうち、この特別な力を制裁することに使うべきだと確信したのだ。』
スパイダーは穏やかな思念波で話し始めた。
「小松原雄一の起こした騒ぎも、これまでの3件の事件も、やはりあなたが仕掛けたのね。」
剣崎が訊く。
『もっともっと多くの事件に私は関与しているのだよ。そのすべてを話すには時間が足りない。いや、話してところですべて終わったことだ。』
おそらく、彼が関与した事件は相当な数になるだろう。だが、それを立証することは無理だ。シンクロとマニピュレート、そしてアストラルの能力を駆使すれば、何人もの人を自在に動かすことができる。そして、それは、関わった本人すら気づいていないに違いない。
「私たちが現れたことを予測していたと言っていたのはなぜ?」
剣崎が訊く。
『生方という青年にもシンクロし情報に気づかせた。山崎刑事にも・・すべてこうなることを予測していた。』
「こうなるって、それはあなたが敗北するということなの?どうして?」
剣崎が重ねて訊く。
『私自身、矛盾を感じていたからだ。いや、罪悪感に苛まれていたというべきだろう。悲しみや苦しみを少しでもなくせるのではと思っていたが、そこからまだ悲劇が生まれてくることを知ったからだ。理不尽なことを私自身が起こしている。制裁は、悪を根絶することにならず、さらなる悲劇や悪を生み出すことを知ったからだ。だが、止めることができなかった。シンクロ能力のせいで、目の前に存在する理不尽なことを嫌でも知る事になるからだ。』
レイも、シンクロ能力を持つがゆえに、他人の悲しみや苦しみを知らず知らずのうちにキャッチしてしまう。だから、様々な事件に関わらざるをを得なかった。レイには、スパイダーの気持ちが痛いほどわかった。
『君たちならきっと私を止めてくれるのではないか、そう思っていた。事実そうなった。』
目の前のスパイダーの光の塊がさらに小さくなっていく。
「もう一つ教えて。射場さんの体に留まれなかったのはなぜ?」
剣崎が訊く。
『彼には特別な能力があった。いや、おそらく伊尾木によって細工された能力があったのだろう。抵抗しつつ、私の思念波に浸食してきたのだ。そして、五十嵐の呼びかけがさらに力を強めた。あのままとどまっていれば、彼自身がモンスターになっていただろう。』
マリアの体から、伊尾木の光の塊がすっと出てきた。先ほどの戦いの中で伊尾木もかなり衰弱しているようだった。
『やはり、そうだったか。それで、これからどうするつもりだ?』
伊尾木はスパイダーに訊いた。
『存在こそ悪だ。』
スパイダーが答える。
『そうだな・・思念波だけで存在していること自体が悪だな。』
伊尾木はそう思念波で言うと、ふっと空高く上がっていった。
それにつられるようにして、スパイダーの光の塊も空高く舞い上がっていく。
『人は、体と思念波が調和した存在なのだ。もはや、我々は存在してはならない。』
伊尾木がそう言うと、スパイダーも呼応するように光った。
「おじさん!」
マリアが叫ぶ。
『ありがとう。ようやく、時が来た。さらばだ。』
そして、二つの光の塊はマリアやレイたちの頭上で、ぐるぐると回り始めた。そして、一旦、大きく離れた後、猛スピードでマリアたちの頭上に向かって進んで、ぶつかった。
辺り一面、凄まじい光が広がり、一瞬にして消えて行った。
見上げると、そこには青空が広がっているだけだった。

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