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4-9 新たな事件 [アストラルコントロール]

剣崎たちはいったんトレーラーハウスに戻っていた。
「彼は何がしたいのかしら?」
剣崎が呟く。
「どうすれば、二人は解放されるのかしら。」
今度は、レイが呟く。
二人の言葉には、特別な能力を持ったがゆえに尋常ではない生き方を強いられた辛さが感じられた。それは、マリアも伊尾木も同じだった。
「また、殺人事件が起こるかしら?」と剣崎。
「それ以上のことが起こるかもしれませんね。」とレイ。
『財団にいたときは、財団の命令に従い達成することだけに生きてきたのだ。自らの行動に目的を持つことはなかったはずだ。だからこそ、今回のような矛盾することを繰り返したんだろう。チェイサーに追いつめられていた時は、身を隠す、逃れることが目的だったはずだ。それがなくなって、きっと迷い道に入り込んでしまったんだろう。自らの能力をどう使えばよいか、判らない日々だったろう。』
伊尾木が言う。
「じゃあ、今、零士さんの体を乗っ取って、五十嵐さんを連れて逃げるということが、彼にとって重要な目的になったということかしら?」
レイが伊尾木に訊く。
『ああ、我々が居場所を探し追いかけることで、彼には満足できる目的を与えることになる。そして、われわれが彼と対峙すれば、彼は自らの能力を解放して挑んでくるだろう。それこそ、彼の存在証明になるだろう。』
伊尾木が答える。
「しかし、このまま放置することはできないわ。」
剣崎が少しいらだった調子で言った。
『ああ、そうだ。気づかれぬように彼に近づき、力を封じ込める必要がある。早くしないと、射場零士の思念波は永遠に失われてしまうだろう。五十嵐さんも無事には居られまい。』
剣崎のスマホが鳴った。相手は、刑事課の山崎だった。スピーカーに切り替える。
「ああ、山崎だ。今朝から、五十嵐と連絡が取れないのだが、何か知っているか?」
山崎の声は少し疲れていた。
「何かあったんですか?」と剣崎が訊く。
「ああ、1時間程前に、男が駅前で自らの喉を切って死亡する事件が起きた。それから30分後には、別の駅前で同じような事件が起きた。こっちも喉を切って死亡した。こんな事件が連続して起きるなど前代未聞だ。例のサイキックとの関連があるんじゃないかと思って、五十嵐に連絡を取ったんだが、電話に出ず、居場所も不明だ。」
山崎は二つの事件の捜査に駆り出されているようだった。
「二人に何か共通点はないの?」と剣崎。
「今、それを捜査している。薬物かもしれないんだが・・」と山崎が答えた。
「きっと、まだ起こるわ。おそらく、死んだ二人は、以前に、何か犯罪を起こして逮捕されずにいるはずよ。そういう人間に制裁を加えようとしているのよ。」
剣崎が直感で答えた。
「なんだって?制裁?よくわからんが、二人の過去を調べてみよう。それで、五十嵐は?」
山崎が訊く。
「端的に言うわ。その事件、制裁を加えたのは、射場零士と五十嵐さん、いえ、正しく言うと、射場零士の体を乗っ取ったスパイダー、そして、五十嵐さんは彼に捕らわれているの。」
「射場が今回の事件を仕掛けているというのか?」
「いえ、射場さんの体をスパイダーに乗っ取られて・・。」
「理解できん。とにかく、二人は一緒にいるということだな。」
「ええ、でも迂闊に・・」
「判った。すぐ二人を探し出す!」
山崎は剣崎の話をさえぎって電話を切った。それほど追い詰められているのがよく判った。
「どう動けばいいの?」と剣崎。
『奴の居場所はすぐわかる。それより、奴をどう倒すか、その方法を見つけなければ。』
伊尾木はそう言ったきり、黙ってしまった。

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