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3-18 逮捕 [同調(シンクロ)Ⅱ-恨みの色-]

深夜になって、周囲は静まり返っていた。
黒いワゴンが駐車場に入ってくる。男が一人、ワゴン車の後部席から降りてくる。
駐車場の暗がりを選ぶようにして、速足で歩き、病院の裏口へ向かう。そして、非常階段を使って、病棟へ入り、5階の病室の入り口まで来た。ナースステーションには看護師は居なかった。
静まり返っている病棟、男は少し違和感を覚えながらも、目的の病室を探した。すでに消灯時間を過ぎていて、廊下は常夜灯の薄明かり程度で、全ての病室の灯りは消えている。
「佐藤優香」と書かれた札を一部屋ずつ確認していく。目指す部屋は、病棟の一番奥だった。
男は静かに病室の引き戸を開ける。ベッドには静かに眠る姿が薄明かりの中に確認できた。男は、ポケットから大きなサバイバルナイフを取り出して、ゆっくりとベッドに近づいていく。そして、ナイフを持った手を大きく振り上げ、胸元辺り目掛けて突き立てた。
その瞬間、病室の照明がぱっと点く。
ベッドには一樹が居て、ナイフを突き立てた男を羽交い絞めにした。
すぐに、後ろから、松山と森田が飛び掛かった。あっけなく男は逮捕された。
隣室から、吉武刑事が飛び込んでくる。
「よし!」
一樹は、ベッドから起き上がり、布団を払う。サバイバルナイフが布団を貫通し、一樹のつけていた防弾チョッキに突き刺さっていた。

一樹は、繁華街の路地で「十勝一家殺害の目撃者がいる」という情報を流し、綾部が動くのを待っていたのだった。病院の協力も得て、改装中の病棟の一部を借り、佐藤優香の病室を作っていたのだった。極めて単純なやり方だが、一度殺害に失敗した綾部は焦っていた、だから、まんまと作戦に乗ってしまったのだった。

「殺人未遂の現行犯で逮捕する。さあ、顔を見せろ!」
男は顔を上げ、不敵な笑みを見せた。
捕まえた男の顔を見て、吉武は落胆した表情を見せる。
「こいつ、青龍会の若造です。・・くそっ!」
「やはりそうか・・・綾部は十勝の事件でも自ら手を下していない。おそらく、井上警部補も誰かにやらせたに違いない。」と一樹。
「どうします?」と吉武。
「きっと、成り行きを確認するために、近くにいるはずだ。そうだ、ワゴン車は?」
一樹が言うと同時に、松山と森田が病室から飛び出した。吉武刑事も、すぐに無線で駐車場に潜んでいる部下たちに連絡する。
駐車場周りに潜んでいた、地元の警察官が気付かれないように、ワゴン車を取り囲む。
車内には、綾部の姿があった。動く気配はない。一度失敗しているためか、確実に殺したことを確認する為、子分の帰りを待っていた。視線はずっと病院の裏口辺りにあった。
警察官が完全の周囲を取り囲んだ。
裏口から、男が二人飛び出してくるのが見える。子分ではない。綾部は、すでに逃げられない状況だという事を直感した。
「綾部だな!」
運転席には、目を閉じ、観念した様子の綾部が座っていた。運転席のドアがゆっくりと開き、黒いスーツ姿の綾部が現れた。
「殺人教唆の容疑で逮捕する。」
吉武刑事が、手錠を取り出し、その場で逮捕した。
「やりましたね、吉武さん。」と松山が言う。
「ああ・・。」

少し遅れて、一樹たちもやってきた。
「優香さん、あの男が綾部。どう?」
亜美が訊いた。
優香は、綾部を睨み付ける。それに気づいて、吉武刑事は、綾部の顔を優香たちの方に向けた。少し歪んだ表情を浮かべている綾部は、何の事か判らないまま、そこに立つ女性を見る。
優香の、強く握りしめた両手の拳が震えている。
レイは優香が綾部に飛び掛かるのではと考え、後ろからそっと体を掴んでいた。
「間違いありません。あの夜の男に間違いありません。」
優香は大粒の涙を溢しながら言った。
「ふん。」
綾部は、優香を睨み返した。
「お前には、十勝の佐藤一家殺害に関する容疑と、その実行犯・・お前の弟分の殺害と死体損壊・遺棄容疑、井上警部補殺害もある。他にも、叩けばいくらでも出てくるだろう。まあ、二度と出て来れんだろうな。」
「何の事だ?俺は無実だ。」
綾部が、最後の悪あがきの様に吐き捨てた。
「せいぜい、言ってろ。証拠ならいくらでもあるんだ。さあ、行くぞ。」
吉武刑事はそう言うと、綾部とその子分を連れ、部下たち共に、署へ向かった。

「これで終わったわね。」
レイが優香に優しく問う。
「後は、吉武さんたちに任せておけば大丈夫よ。洗いざらい調べてくれるはずだからね。」
亜美も言った。
優香からは、あの恨みの色の思念波は消えていた。
「さて、そろそろ、橋川署に戻ろうか。署長も課長も首を長くして待ってるんじゃないか?」
一樹が言うと、森田が言った。
「ええっ?もう帰るんですか?・・ようやく片付いたんですから、札幌で少し骨休めしませんか?」
「そうですよ。北海道は美味しいものがたくさんあるんですから・・」と松山も言った。
一樹は亜美の顔を見た。
「そうね、遠藤さんも明日には退院だって言ってたから、もう1日のんびりしましょうか?」
亜美が言う。
「じゃあ、亜美、署長に連絡しておいてくれ。あと2日ほどこっちに居ますって・・いいな?」
結局、一樹が一番、骨休めをしたかった様だった。

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