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3-13 跡を継ぐ者 [アスカケ外伝 第1部]

霞提.jpgタケルは、ヤスキやシルベたちとこれからの進め方を相談した。
まず、田屋の郷に多くの男達を投入し、土砂を取り除き、館と共に埋まっている巨勢一族の者や民を見つけることに専念した。その後は、難波津から来た男たちを二手に分け、一方は、クマリを顔役として和田の庄へ向かわせた。もう一方は、ニトリを顔役として田屋の郷の復興に当たらせることにした。
田屋の郷では、一週間ほどかけて、多くの土砂が取り除かれ、バラバラになった館は見つかった。そして、多くの民の亡骸を見つけた。しかし、頭領ハトリは見つからなかった。
「もう良いでしょう。・・兄は、この大地に戻ったのです。」
皆、疲れも忘れ、懸命に探していたが、ニトリは、皆を止めた。兄ハトリは、決して良い頭領ではなかったはずだった。田屋の民は、それでも、亡骸であっても見つけようと必死に汗を流し働いている。その様子に、ニトリは民を慈しみ労わる事こそ重要だと決断したのだった。
そして、屋敷のあった場所に、土を高く盛り、土器を並べ、大きな墳墓を作った。
「これからは、郷をもとに戻す事が大事です。山津波が起きない場所に郷を移しましょう。」
ニトリたちは、山の斜面を見て回り、小高い丘に郷を作り直すことを決め、樹を切り出し、一つずつ家や道、田畑を作って行った。
一方、和田の庄では、郷の者の提案で、まず泥濘を取り除くため、排水路づくりから始められていた。何カ所かに、水を溜める池も作り、大川まで排水できるようにした。これは、排水だけでなく、田畑へ水を運ぶ重要な役割を果たす事になり、和田の庄は以前の倍以上の田畑が作れるようになっていった。
シルベは、その二つの集団のまとめ役となり、時には、両方で人を融通して大きな仕事ができるようにした。ヤスキは、聞き役として、日々の中で生じる問題を、シルベ、ニトリ、クマリを合議して解決する役に徹した。不足する物があれば、定期的に来るウンファンに依頼し、難波津から取り寄せる役も担っていた。
タケルは、淡島の頭領ヤシギ、紀一族の頭領ユミヒコ、園部のオノヒコとともに、郷の復興の様子を確認しながら、作業する男たちと郷の者が力を合わせて取り組めるように差配することとなった。
ひと月ほどすると、順調に作業は進み始めた。
大きかったのは、ジウの存在だった。ここにいる男たちの中には、弁韓や辰韓の男達がいた。最初は言葉が通じず、作業も滞りがちだった。特に、和歌の浦の郷では、水軍に襲われた恨みが根強く、弁韓の男には冷たかった。そんな様子を見て、ジウは、男たちに丁寧に大和言葉を教えることで、次第に、和歌の浦や名草の民と少しでも心が通じるようにと腐心した。そして、次第に一緒に働けるようになったのだった。
ある日、ジウがタケルたちの許へやってきた。数人の男も同行している。
「タケル様、お願いがございます。」
ジウは、タケルたちの前に跪いて、頭を下げる。同行した男たちも同様に頭を下げる。
タケルは、頭領たちと一緒に黒田の郷のあった場所にいた。
「何でしょう?それほど畏まって・・。」
タケルが訊くと、ジウが顔を上げ、真剣な眼差しで言った。
「韓から来られた方々が、紀の国の民として生きていきたいと申されています。・・できれば、皆が暮らすために、新しい郷を作りたいと・・。」
ジウの言葉に、同席していたヤシギやユミヒコは驚いて、タケルを見る。
「確かに、故郷へ戻れない者、ヤマト国で生きたいと考える者を集め、連れてきましたが・・・。それは、私が決められる事ではありません。・・ここに居られる、ヤシギ様やユミヒコ様、そしてニトリ様にもお聞きしない事には・・。」
タケルはそう言って、ヤシギとユミヒコを見る。二人は顔を見わせ、思案している。
「新しい郷を・・と言っても・・・なあ。」
ユミヒコが言うと、ヤシギが続けた。
「淡島一族は、もともと、海を渡ってきた。何もなかった浜に少しずつ郷を作り暮らしてきた。難波津や那智から来た者もいる。和歌の浦であれば、そうしてもらっても構わないが・・。」
それを聞いて、ジウが、「では・・宜しいのでしょうか?」と嬉しそうに答える。
「ただ、郷を作るのは容易な事ではない。今ある郷で共に暮らすというのはどうかな?」
と、ヤシギが訊いた。
「それも考えました。ですが・・韓人の中には、水軍の兵士として、和歌の浦の郷を荒らした者もおります。今は、懸命に働いていますから、郷の皆さまは恨む心を抑えて居られます。ですが、元に戻った時、そのままで居られるでしょうか?」
ジウが答えた。
「だから、自分たちの郷を作る方が良いのではないかと・・。」とタケル。
「はい。韓人もそうして、時間をかけて、皆さんとともに助け合える関係になれればと願っております。」
ジウが答える。
「そうか・・」とタケルは、空を見上げた。そして、何か思いついたようにジウと同行してきた男たちを見て言った。
「それなら、この地に郷を作ってはどうでしょう。ここは、水害を防ぐ要の土地。今よりももっと高く土を盛り、その先の中ノ島までを繋ぎ、流れを大きく変えたいのです。」
それを聞いて、同行していた男たちは、ジウの顔を見た。
タケルの言葉はまだ、彼らには半分ほどしか判らないようだった。ジウが、彼らにタケルの提案を伝えると、男たちは強く頷き、たどたどしい大和言葉でこう言った。
「堤は大事。それと・・水路も作って・・・水を逃すこともしたい。」
それを聞いたジウが、改めて男たちに訊いている。そして、タケルたちに言った。
「彼らは、韓で治水の仕事をしていたようです。彼らに任せれば大丈夫でしょう。」
それを聞いて、タケルは訊いた。
「ヤシギ様、ユミヒコ様、いかがでしょう。」
「うむ。そうなれば、彼らは民を守る役割を担うこととなり、恨みなど考える事もなかろう。」
話はまとまり、ジウは、男たちと喜んで戻って行った。

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