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4-3 記憶の中の男 [アストラルコントロール]

「マスターの記憶に残っていた男が何者か、早急に突き止めなければならないでしょうね。」
レイが続けた。
「ただ、強力な能力の持ち主だとすると、正体を突き止めることは難しいかもね。・・生方のほうはどうなっているのかしら?」
剣崎が言うと、スピーカーから生方が返答した。
「AIを見くびらないでいただきたい。正体がつかめましたよ。氏名は、斎藤俊。24歳。浜西大学の工学部の4年生でした。・・今は大学に言っているようですね。」
「こんなに早く特定できるの?」
五十嵐は、生方の説明に驚いた。
「まあ、今回は、マスターの記憶の映像でしたから、どこまで正確なのか、心配していたんですが、周辺の監視カメラ映像から、似た人物を抽出して、そこから、周辺の大学や会社の登録証やパスカードの顔写真と照合して、特定しました。」
生方が得意げに言った。
「いったい、個人情報はどうなってるの?」
と五十嵐は呆れた顔で言った。
「あれ?五十嵐さんも、犯人のモンタージュから、警察のデータベースで人物の特定をするでしょう?それと同じですよ。ちょっと、元になるデータが多いだけですがね。」
「しかし・・大学や会社の登録証からなんて・・違法じゃない!」と五十嵐が反論する。
「別に、会社や大学のデータにアクセスしたわけではありませんよ。AIは、監視カメラ映像から、情報を収集しているにすぎません。会社や大学、コンビニ、駅、いろんなところに設置された監視カメラデータは、我々のセクションで収集することは認められているんですよ。そこから、データを解析しただけのこと。もちろん、外部に流出することはありませんから、ご心配なく。」
生方の得意げな話をひとしきり訊いた後、剣崎が言った。
「まあいいわ。それで、彼の行動パターンから判ったことは?」
「真面目な学生です。きちんと講義にも出ています。ただ、ネットの使用は多いですね。」
「ネットを使って犯罪を起こさせているの?」と五十嵐。
「いえ、そういうわけではなさそうです。アクセスログからは、工学系のWebサイトの閲覧やダウンロードばかりでしたから・・ああ、時々、Youtubeも見ているようですね。」
「そんなことまでわかるの?」五十嵐は驚いて訊いた。
「これはちょっと違法性があるかもしれませんが・・。」
と生方は答えるとさらに続けた。
「しかし、メール記録を覗いてみましたが、今回の事件との関わりは見つかりませんでした。まあ、こういうことをやるからには、あらかじめ証拠が残らないように、消去したかもしれないので、今、ネット情報の収集を進めています。彼の発信ログをたどれば、どこかのサーバーに残っているかもしれませんから。」
すぐに生方から斎藤俊に関するデータが配信された。
「確かに、見る限り、今回の一連の事件とのつながりは皆無ね。」
剣崎が慎重に言った。
「生い立ちも調べましたが、ごく普通の家庭で育ち、大学にも苦労なく入っていました。医療情報も特にありません。」と生方が言う。
「高度な能力を持つサイキックなら、それを隠し通していることもできるでしょう。」
剣崎が言う。
「彼が今回のすべての首謀者なら、迂闊に近づくのは危ないわね。」
剣崎は生方から届いたデータを見ながら呟く。
「彼の思念波にシンクロしようとしたが、できなかった。かなりの能力だと思います。」
マスターが付け加えるように言う。
「いえ、私は彼に会ってみます。私には特別な能力はないですが、刑事です。彼が首謀者かどうか、見極めます。それが、警察のやり方ですから。」
五十嵐はそう言うと、生方から贈られたデータをスマホに移して立ち上がる。
「それなら、私も行きます。万一の時、彼女を守らなければ・・。」とレイが立ち上がる。
「僕も行きましょう。彼が首謀者なら特ダネですから。」
射場零士はそう言いながら、実のところは五十嵐が心配だと感じただけだった。
マスターも店に戻ると言って出て行った。

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