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4-4 斎藤俊 [アストラルコントロール]

五十嵐と射場、そしてレイは、生方が示した斎藤俊のアパートへ直行した。
夕刻になっていて、アパートの窓から明かりが見えた。
「零士さんとレイさんはここで待っていてください。ここからは警察の捜査です。民間人を巻き込むことは許されません。」
「だが・・」と零士が言いかけたところで、レイが言った。
「判りました。大丈夫です。私はあなたとシンクロしています。何か起こればすぐにわかります。零士さん、大丈夫ですよ。」
レイと零士は、アパートから少し離れたところで様子を伺うことにした。
五十嵐はインターホンを押す。短いチャイムが響いて、ドアに向かって歩いてくる足音が聞こえた。
ゆっくりとドアが開く。
「警察です。斎藤俊さんですね。ちょっとお話を伺いたいんですが。」
五十嵐がバッジを見せながら言った。
「警察?どういう要件でしょうか?」
そう答えた斎藤俊は、少し神経質そうに見えるが、ごく普通の学生だった。
「最近、この町で殺人事件が連続して起こっているのは知っているかしら?」
「いえ・・。」と、敢えてとぼけている様子でもない。
「知らない?」
「ええ、テレビも新聞も見ないので・・それで、僕に何か関係しているんでしょうか?」
「捜査の過程で、あなたの名前が出てきたんですよ。」と五十嵐。
「僕が?何かの間違いでしょう。」
そんなやり取りの最中に、廊下に隣室の住人が顔を出し、様子を伺っているようだった。
「判りました。とりあえず、ここでは迷惑になりますから、部屋にどうぞ。」
斎藤俊はそう言って、ドアを開いて五十嵐を招き入れた。
ドアの中に五十嵐の姿が消え、零士は穏やかではいられなかった。
「大丈夫、すぐに中の様子を・・。」
レイはそう言うと目を閉じて集中し、五十嵐の思念波にシンクロした。それから、零士の手を握った。零士の頭の中に、五十嵐が見ていている風景が広がってくる。零士は声が出なかった。体験したことのない感覚だった。光景が見えるだけではない。部屋の中の臭いまで感じられた。
部屋の中は、シンプルだった。いや、あまり、家財がない。部屋には大き目の机と周囲に本が積まれている。冷蔵庫はあるが、あまり、生活感が感じられなかった。
「課題の提出が近いんで、手短にお願いします。」
斎藤俊はそう言うと、小さな折り畳みテーブルを部屋の真ん中に出し、小さな座布団を置いた。
五十嵐は、静かに座り、部屋の中を見回した。
彼の言う通り、テレビはない。最低限必要なものがあるというところだろう。だが、敢えて、そういう演出をしているのかもしれないと懐疑心が強まる。
「あなた、本田幸子という人物を知っているわよね。」
「本田?・・幸子・・。いえ、思い当たりませんが・・。」
「じゃあ、桧山雄一郎という名は?」
「いえ、わかりません。」
「石塚麗華は?」
「いえ・・一体何なんですか?名前を並べられても全くわかりませんし、謎解きに付き合っているほど暇じゃないんです。」
五十嵐は彼の反応を見て、直感的に、我は今回の一連の事件とは無関係だと感じた。
「3人とも殺人犯。いえ、殺人計画を考え実際に行った被疑者よ。貴方が3人にシナリオを描いて実施させたんじゃないかと考えたんだけどね。」
五十嵐の言葉はすでに彼を被疑者ではないと判断した言い方だった。
「そんな馬鹿な・・どうしてそんなことをしなくちゃいけないんです。・・そんな暇はないんです。課題を出すだけで精一杯なのに・・どうして僕が疑われなくちゃいけないのか訳が判らない。」
その時、レイが思念波を通じて五十嵐に伝えた。
『彼は無関係ね。彼から特別な能力を一切見つけられないわ。戻りましょう。』
『そうね。』と五十嵐は思念波で返事をして立ち上がる。
「ごめんなさい、人違いだったみたい。」
五十嵐はそう斎藤俊に告げて、アパートを出てきた。

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