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4-5 リフレーミング [アストラルコントロール]

レイはトレーラーハウスに戻ってきて、斎藤俊と対面した時の様子を伝えた。
「彼は首謀者じゃない。ノーマルな人間だった。」
「そうね。」と剣崎も答えて、データが映し出されたままのモニターを見ている。
マリアは、体の中にいる伊尾木と何か話しているようだった。
「おじさんも同じ考えみたい。」
「しかし、マスターが見誤ることがあるでしょうか?」とレイ。
「初めの事件は、本田幸子が誘導されるように殺人を犯した。そして、それには、事務所の社長が大きく関与していた。かなりまどろっこしいやり方だったわ。本田幸子を罰するためなら、もっと効率よくできるはず。それと、事件を誘導した事務所社長は何の罪にも問われず行方をくらましている。結局、悪を野放しにしていることになる。本田幸子はむしろ被害者かもしれない。」
剣崎が事件経過を読み直す。
「犯罪計画を請け負った人物がいるということですよね。」とレイが言う。
「そうなのよ。2件目の事件は確かに直接誘導したと言えるけれど、桧山雄一郎自身がかなり主体的に動いている。全く関連性がないように見えるのよね。」と剣崎が言う。
「3件目では、自ら手を汚さず人を使って殺害に及んでいます。初めの事件に似ているようですけど、少し稚拙な感じです。」と、レイが続ける。
「マスターの言うように、誰かが計画を立て、特別な能力で人を操って事件を起こさせたというのは何か違うように思えるわね。」と剣崎が言った。
「ねえ、伊尾木さんが伝えたいことがあるって・・。」
とマリアが口を開いた。
『彼の予知能力は本物なのか。』
伊尾木が言っているのは、マスターのことだった。
「マスターのこと?」
『ああ、そうだ。彼に会って話をし、今回の事件にサイキックが関与していると我々は信じ切っていた。だが、冷静に考えると、やはり、斎藤俊が事件の首謀者だという根拠は、奴の証言しかない。本当にそうだろうかと疑ってみると、一連の事件は、偶然に起きたものではないかともいえる。射場零士が殺害現場にアストラルされたということを除けば、共通性は極めて低い。』
伊尾木が思念波で皆に話す。
「じゃあ、マスターはどうやって事件現場を特定できたの?やはり予知能力があるんじゃない?」
剣崎が反論気味に言う。
『レイさんやマリアが持っている能力、シンクロ能力があればどうだ?』
「どういうこと?」とレイが訊いた。
『本田幸子とシンクロ出来れば、彼女がやろうとしていることを知る事は容易い。同じように、桧山雄一郎も、石塚麗華も、シンクロすることで何をしようとしているかが判ればできるはずだ。』
「マスターが偶然、3人とシンクロしたということ?」
剣崎がやや呆れたように言った。
『偶然ではなく、そういうふうに仕向けることだってできるだろう。』
伊尾木が言うと、剣崎とレイは顔を見合わせた。
スパイダーはサイキック工作員だった。ターゲットの思念波にシンクロし、思うようにターゲットを操ること、それこそ、スパイダーの最大の能力だった。
「でも、なぜそんなことを?」
レイが言うと、剣崎が答えた。
「悪への制裁なんでしょう。良からぬことを考える人間を見つけ犯罪を起こさせ逮捕させる。おそらく、殺された人間も彼に言わせれば罪人なのかもしれないわ。」
「単なる自己満足でやっていたということ?」とレイ。
「あの財団で育成されたサイキックには、善悪の正しい価値観などないわ。自らの能力を活かして自らの命を守ること。命令に従えば生きながらえる。幼いころからそういう教育を受けてきたのよ。マリアのように、それを受け入れずにいられることは珍しいのよ。」
剣崎はそう言うと、マリアを見た。
外の世界から隔離された環境に置かれ、過酷な訓練を受け、自らの価値観など意味を持たない世界。マリアはそこから逃れる道を選んだ。剣崎はその世界を受け入れ、任務を果たし生き延びてきた。
スパイダーは、その能力ゆえに、剣崎より厳しい環境で過酷な訓練を受け、命を奪うことに何のためらいももたないサイキックに育てられた。ともに、特別な能力を持っていても、生きざまは様々である。

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